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Yahoo!動画配信サービスの先見性西正(2/2 ページ)

» 2006年02月02日 20時46分 公開
[西正,ITmedia]
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 ネット上での決済に不安を覚えるユーザーは多い。そうした不安感を抱かせることなく、有料のモデルにチャレンジすることも、正しいビジネスモデルを模索していくために功を奏することは間違いなかろう。

複数のモデルを並存させる狙い

 テレビとPCとでは、コンテンツを視聴するスタイルが異なるという議論も引き続きあり、それに対する明確な答えは示されていない。PCでコンテンツを視聴するようになってからの歴史が浅いからだという意見もあり、確かにそれも現段階で正誤を明らかにすることは難しい。

 IP方式を使って多チャンネル放送を提供している事業者の主要なスタイルは、専用のセットトップボックス(STB)を使ってテレビ画面で番組を視聴させるものである。多チャンネル放送に加えて、IP方式の特性を生かしたVODサービスの提供も行っている。

 こうした事業モデルにもいち早く取り組んだソフトバンクグループでは、BBTVというサービスを提供している。この事業では、他にもオンラインティーヴィとぷららネットワークスによる4th Media、KDDIの光プラスTV、オンデマンドTVなどが加わっているが、サービスの認知度を高めるのに苦労しており、どのサービスも加入者数は2万件を切っている状況にある。

 BBTVも同様の状態であったが、昨年の7月にSTBを小型化リニューアルしたのを機に、強力な販売攻勢をかけた成果として、今年度中には10万件の加入者を獲得できそうな見通しとなってきた。

 ソフトバンクグループの戦略として、インフラ事業もさることながら、コンテンツ事業を強化しようとの狙いが読み取れる。PC向けのYahoo!動画に力を入れている一方で、BBTV事業をも強化している姿勢に疑問を感じる人も多いようだが、そもそもビジネスモデルを模索している段階であるとの認識に立ち返れば、複数のモデルに等しく力を入れることは当然であろう。

 経営資源の効率配分という考え方は、ある程度のビジネスモデルが確立している事業についてのものである。現段階では、自社グループの中で複数のモデルに等しく力を入れていき、その結果として最も成長性の高い事業モデルを見出すことが最優先と言える。

 そもそも個別の事業の規模を見る限り、コンテンツの調達コストを賄うことが難しい状況にあることは、競合する事業者が最も良く知っているところである。媒体や収益モデルは違っても、動画配信という事業に変わりはない。どうせコンテンツの調達を行うのであれば、コンテンツホルダーに対して支払うコストが最低補償金(MG)の範囲内であるケースが多い段階では、複数のモデルで活用した方が賢明であることは間違いない。

 ソフトバンクグループの中には、ゲーム・オンデマンドやオンラインゲームなどのゲーム事業も確実に育ちつつある。そうしたコンテンツも弾力的に投入していくことが可能である。投資段階から果実の採取段階に成長してきた分野が、コンテンツ事業全体の活性化につながっていくことは十分に期待できる。

 コンテンツ事業の要諦は、長期的な視野を持って臨んでいくべきところにある。グループ企業群の中で、コンテンツを扱う企業についてはあまり早急に成果を求めてもうまくいかないことが多い。ある意味では、Yahoo!動画配信も、まだまだこれからの事業と言えるのかもしれない。ただ競合事業者からすると、自社のポータルサイトを強化するための策を、元々のポータルサイトに強みを持った事業者に、その強みが生かされる形で先んじられることになる。

 ソフトバンクグループの場合には、特定のテレビ局に対して強引な提携を迫るのではなく、テレビ局もコンテンツの調達先の1つとして広くオープンに接していく戦略が採れる。強力なポータルサイトの実力を背景に展開するYahoo!動画配信サービスには、コンテンツホルダーがコンテンツを提供し易い環境を作れる要因が多い。

 こうした手法を用いて、結果として放送と通信が自然に連携していくようにすれば、従来から論じられてきた種々の障壁を乗り越える契機となる可能性を期待できるだけでなく、ビジネスモデルの確立も予想以上に早まる可能性は高い。

 テレビ番組がネット配信されるライブラリーも広がっていくことになるだろう。Yahoo!動画配信が、先見性に満ちた事業であることは間違いないだけに、ライバル各社としても、その動向に対してはこれまで以上に注視していくべきだろう。1社が一人勝ちする構図では、ユーザーにとっての利便性の向上も限られてしまう。ライバル各社が立ててくるであろう対策にも注目していきたい。

西正氏は放送・通信関係のコンサルタント。銀行系シンクタンク・日本総研メディア研究センター所長を経て、(株)オフィスNを起業独立。独自の視点から放送・通信業界を鋭く斬りとり、さまざまな媒体で情報発信を行っている。近著に、「IT vs 放送 次世代メディアビジネスの攻防」(日経BP社)、「視聴スタイルとビジネスモデル」(日刊工業新聞社)、「放送業界大再編」(日刊工業新聞社)、「どうなる業界再編!放送vs通信vs電力」(日経BP社)、「メディアの黙示録」(角川書店)。

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