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生活に“なじむ”デザインを――23年目の「it's」インタビュー(2/2 ページ)

» 2006年03月08日 13時34分 公開
[渡邊宏,ITmedia]
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自転車やベッドも作った

 「一人暮らしの生活ツール」という基本コンセプトは1984年のスタートから変わらず引き継がれているが、具体的な製品ラインアップはその年々によってかなり変化している。自転車(1994年)やベッド(1991年)、テレビ(1985年)などが発売された年もあるが、「冷蔵庫」「レンジ」「炊飯ジャー」「掃除機」「洗濯機」という基本5アイテムは常に用意されている。ここからもit'sシリーズがあくまでも「一人暮らしの生活に密着した家電」のシリーズであることが分かる。

photo 基本アイテムのひとつ、炊飯ジャー。シルバーのカラーリングには、「ツール」としての意味合いを持たせるというニュアンスも含まれているという

齋藤氏: 私たちが調査を行ったところ、一人暮らしを始める際に必要とされる家電の上位5つが「冷蔵庫」「レンジ」「炊飯ジャー」「掃除機」「洗濯機」なのです。昔はテレビも上位に入っていましたが、テレビがひとり1台の時代となって久しく、最近ではあまり上位に入りませんね。時流をにらみつつ、必要な製品を展開していくことが必要です。ちなみに、製品化はされませんでしたが、以前にはPCやクルマなども企画されました。

 家電については“油を使わずに揚げ物を作れるレンジ”のような高機能化の流れも確かに存在していますが、it'sシリーズはあくまでも時代にあった、シンプルな一人暮らしのツールとしてのスタンスを変えずにいたいですね。「変えない」というのも1つのコンセプトだと考えています。


 始めに「機能ありき」ではなく、「コンセプトありき」としてスタートし、これまで続いてきたit'sシリーズ。目に見えにくいモノを第一に掲げたため、ひとかたならぬ苦労もあったという。事実、ほかの家電メーカーも同種のシリーズを展開した時期があったが、程なく終了している。

齋藤氏: 「こうした製品シリーズである」と認めてもらうまでがやはり大変でしたね。ただ、2002年あたりからは販売店側でも独自のフレッシュマン向けシリーズを展開するなど追従するような動きもあるので、市場からも認知されてきたのでは感じます。今では「春はit'sシリーズの季節」と認めてもらえたと思います。

生活空間に“なじむ”製品を目指して

 昨今では機能やコストパフォーマンスよりもデザイン性を重視した「デザイン家電」と呼ばれる製品も多く登場している。各種メディアで取りあげられることも多く、話題のスポットに直営店を構えるなど露出も増えているが、こうした製品についてはどのように感じているのだろうか。

太田氏: 非常に刺激を受ける存在であることは確かです。市場を調査したり、実際にインテリアショップへ出向いて話を聞いても、そうした製品を求めるユーザーが増えていることを感じます。

 ですが、購入するユーザーは自分の部屋、生活空間がこうありたいとイメージできている人だと思うんです。同時に、多くの人は家電製品について機能であったり、コストパフォーマンスであったり、信頼性であったり、デザイン以外の要素を多く求めているようにも感じています。it'sについてはそうした要素も十分に満たしているので、デザインだけではない部分も含めて、これからも提供していきたいですね。

photo ツールとして存在感はあるけれど、過度に主張しないデザインをit'sシリーズで実現したいという太田氏

太田氏: デザイナー個人としては、シンプルでありたいとか、使いやすさを追求しながらも質感を高めたい、本物志向の製品を作りたいという欲求を常に持っています。デザイン家電と呼ばれる製品が多く市場に登場してきたことで、市場が熟成し、メーカー同士も切磋琢磨しあって、いい製品ができればいいなと思っています。

 これからもシンプルで過剰に主張しない、けれど素材の良さを引き出した、生活に“なじむ”家電づくりを目指したいですね。

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