日本テキサス・インスツルメンツは3月9日、音質向上を図るアルゴリズム新技術を発表した。同技術によって圧縮音源の音質/音響を大幅に改善できるほか、仮想サラウンド機能を付加できるなどデジタルAV製品の音質向上ソリューションを提供できるという。同日、同社が新技術の説明を行った。
今回開発された音質向上アルゴリズムは、音質/音響を改善する2種類のアルゴリズム「低音域拡張技術」「バンド幅拡張技術」と、仮想的にサラウンド音響空間を創出する「バーチャル・サラウンド技術」の3種類で構成。同社の筑波テクノロジー・センター(TTC)で、研究からソフトウェア最適化まで一貫して開発された。
薄型テレビやポータブルオーディオプレーヤーなどの普及で、小口径のスピーカー(ヘッドフォン)で音を聴くシーンが増えているが、小型スピーカーの弱点は低音域の再生が困難なところだ。
「典型的な小型スピーカーの周波数特性を見ると、人が聴けるという20〜20000Hzの周波数で、小型スピーカーは200Hz以下で徐々に減衰していき、20Hz台のところでは25デシベルも減衰しているのが分かる。つまり低音が出てないということ」(伊藤氏)
低音域不足を解決するため、従来はイコライザーの振幅増幅で低音を補っていたが、原音を変質させる上に無理に強調された重低音の振動が不快感を生んでいた。
新アルゴリズムの1つ「低音域拡張技術」は、音響心理学の原理に基づく技術を応用。原音に含まれる音声信号から擬似低音を作り出し、それを聴かせることで重低音を認識させるという。
「音響心理学で知られているMissing fundamentalを利用した。これは原音が出てなくても、倍音が鳴っていれば聴こえているように錯覚するという原理。物理的に50Hzの音が出ていないものでも、倍音を足すことで50Hzが聴こえているようにできる」(伊藤氏)
倍音の生成は同社独自の倍音発生器を使用。擬似低音を作り出すプロセス精度を上げると処理負荷が大きくなるが、新アルゴリズムでは同等処理を小負荷で行える手法が取り入れられている。
MP3/AACなどの非可逆圧縮形式の圧縮音源は、人間の耳では聴こえにくい16kHz以上の高音域を削除する傾向がある。そのため、高音が物足りないなど再生時の音質劣化が“音にうるさいユーザー”などから指摘されている。
「バンド幅拡張技術」は、圧縮により失われた高音域をリアルタイムに解析し、原音に近い形まで補完する技術。高音域がカットオフ(削除)された非可逆圧縮形式データでも、カットオフ部を推定して高音域を生成し、オリジナル音源が本来持っていたクリアな高音を再現できるという。
「高音域は倍音から成る、という弦楽器での原理に基づいて、中音域から複製して高音域を作り出している。カットオフ部を動的に検出する“リアルタイム カットオフ推定”が独自技術。これにより、原音に近い自然な高音が生まれる」(伊藤氏)
DVDやデジタル放送の普及で5.1ch音源のコンテンツが増えているが、配線の煩わしさや設置スペースの制約から、5個以上のスピーカーにサブ・ウーファーといったマルチスピーカーでのサラウンドシステムよりも気軽に楽しめるフロントサラウンドが注目されている。
これまでもフロント2chでサラウンドを作り出す仮想音響技術はいくつもあったが、同社が開発した「バーチャル・サラウンド技術」は、独自のアルゴリズムで低演算量ながらも最大のサラウンド効果が得られるのが特徴。
「同じサラウンド環境を作り出すといっても、2chスピーカーの場合は音源に近いほうの耳だけに音を届けるためにクロストーク(耳と逆側の音)をフィルタで相殺する方法を採用。また、ヘッドフォンの場合はクロストークが無くなるが、その分、音の経路をしっかりシミュレートして音の広がりをしっかりと再現しなくてはならない。ルームモデル(部屋のパラメータをモデル化)を独自に設定し、それを当社のDSPに最適化した」(伊藤氏)
今回発表された3種類のアルゴリズムは、同社のオーディオ用DSP「Aureus」プラットフォームと、フルデジタルアンプ「PurePath Digital」テクノロジーに対応している。
昨日3月8日に発表されたヤマハの普及型AVアンプ「DSP-AX759」「DSP-AX559」「DSP-AX459」にも「Aureus」が採用されており、今回の新アルゴリズムと類似した圧縮音源の音質向上機能「ミュージックエンハンサー」が新製品のアピールポイントとなっているが、「ヤマハAVアンプに搭載された機能は、今回の新アルゴリズムとは別の技術」(同社)とのこと。
今回の新アルゴリズムを採用したAV製品は、今春から市場に投入される予定だという。
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