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大企業がエンターテイメントロボットを作れない理由LifeStyle Weekly Access Top10

» 2006年04月28日 23時25分 公開
[芹澤隆徳,ITmedia]

 今週8位にランクインしたスピーシーズのインタビュー。同社の春日社長は、ソニーでAIBOを担当していたという、いわば家庭用エンターテイメントロボットのプロだ。ただ話を聞いていると、AIBOの経験や成功をなぞるのではなく、むしろ反面教師にしている印象を受けた。

 AIBOとITR――2つの家庭用ロボットを比べると、その理由がよく分かる。たとえば、自律動作が可能なAIBOに対し、ITRはユーザーの操作か“番組”が必要だ。技術的にどちらが高度なのかは書く必要もないだろう。

 しかし、実際の利用シーン……つまり遊びを考えると話が違う。記事中でも触れているが、春日氏は「購入して、数カ月もすると部屋のオブジェになってしまうロボットではダメ」と指摘している。

 心当たりがある。1999年に初代AIBO(ERS-110シリーズ)が3000台限定で発売されたとき、筆者が在籍していた編集部でも(ネタのために)1体購入した。コンビニ決済の際に店員さんが1桁間違えてレジを打ったりして(当時25万円の請求書なんて珍しかったのだ)、ネタ的にはかなりオイシイ買い物だった。

 しかし、最初は編集部のアイドルだったAIBOも、3カ月もすると充電ステーションの上で“寝たきり”状態。仕事中に起き出すとうるさいので、リモコンで強制的に寝かしつけられていた。ERS-110には、言葉などを憶えて成長する“育成ゲー”の要素もあったが、人からみれば戯れるほかにやることがない。

 対してITRは、「番組」を入れ替えると全く新しいキャラクターに変わる。AIBOが単体の育成ゲームなら、ITRはいろいろなソフトを使えるゲーム機そのものだろう。いささか乱暴なたとえだが、「たまごっち」と「ニンテンドー DS」なら、大抵の人はDSを選ぶはず。スピーシーズが展開するプラットフォームビジネスとは、ゲーム機メーカーのそれに近い。

 春日社長は、5年ほど前にソニーを退職し、ロボットベンチャーを立ち上げた。理由は「ロボットビジネスにはものすごい可能性を感じていた。しかし、ソニーのような大きな会社では、新しいものを作っても100万台売らなければビジネスにはならない」ため。

 AIBOは、発売した3000体をわずか20分で売り切るなど、大きな話題になった。しかし、7年が経過した今年の1月、経営のスリム化を進めていたソニーは「QRIO」とともに「AIBO」の製造中止を決め、図らずも春日氏の見通しが正しかったことが裏付けられた。AIBOのシリーズ累計販売は、全世界で15万体だった。

 「ソニーを辞めたもう1つの理由は、ロボットを“もっとオープンなものにしないと市場は作り出せない”と考えたから。ロボットというのは、いわば手足の生えたパソコン。パソコンの歴史を顧みると、IBM PCというオープンなアーキテクチャがあって、そこにビジネス機会を見つけた企業や開発者が集まって広がった経緯がある。ロボットも同様で、アーキテクチャの段階からオープンなプラットフォームがなければダメでしょう」(同氏)。

 市場が広がれば価格も下がる。価格が下がれば、さらに市場が広がる。スピーシーズのアプローチが、家庭用エンターテイメントロボットの価格を引き下げることにも期待したい。

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