ITmedia NEWS >
コラム
» 2006年05月11日 09時06分 公開

西正:放送・通信連携途上における「紐帯関係」の考え方 (1/2)

ネットの登場・普及により、放送は1対N、通信は1対1との区別は意味をなさなくなっている。しかし、ネットによる動画配信ビジネスを進めていく上で、現行法制度のままでは利用者との「紐帯関係」が必要になる。改めて整理しておくべき概念と言える。

[西正,ITmedia]

通信における「信書の秘密」

 放送と通信の連携が事実として進みつつあるとはいえ、現行の法制度の下では放送と通信とは厳然と区別されている。連携時代に適応した法改正が行われるべきであることは間違いないが、それまでの間は両者の法的なハードルを意識した上でビジネスを進めていく必要がある。

 今の放送サービスと通信サービスの状況を単純に比べると、放送サービスには多くの規制が存在し、通信サービスはより自由であるかの印象を受けやすい。特にインターネットの普及により、通信サービスの自由度は過度に大きく見えがちである。

 一方で、放送と通信の連携時代の鍵となるであろう著作権問題については、放送には簡便な制度が構築されており、それを通信サービス、とりわけ通信系の放送類似サービスへも早期に転用できるようにすべきだと主張されている。

 しかし、上記のような切り口から両サービスを比較すると、明らかに自由度という考え方について大きな矛盾が見られる。その理由は「そもそも論」として、通信サービスに課せられている「信書の秘密」が、ネット時代になり存在意義が曖昧になってきていることによる。

 日本国憲法第21条は興味深い構成になっていて、第一項で表現の自由について規定するのと同時に、第二項では通信の秘密について規定している。通信の秘密とは、簡単に言えば、送り手から受け取り手に出された手紙などを第三者が勝手に見ることは許されないというものである。いわゆる「信書の秘密」である。検閲の禁止と同文中にて規定されていることからも、両者が密接不可分の関係にあることが分かる。放送は1対Nであり、通信は1対1であると区別されていることにも符合するものである。

 インターネットの登場により、通信も必ずしも1対1ではなく、1対N的な要素が強まっている。しかし、「通信の秘密」が規定されている以上は、たとえインターネットであっても、1対1であるように見えるだけの理屈付けがなされる必要がある。

 「表現の自由」との関係を先に述べると、「表現の自由」が認められているからといって、他人を誹謗中傷しても構わないということにはならないことと関連する。放送は1対Nであるから誹謗中傷などはとんでもないが、個人と個人の手紙のやり取りの中で他人を誹謗中傷しても、そこで罰せられることはない。

 インターネットを使った誹謗中傷の場合には微妙だが、星の数ほどあるサイトの中での言動なら当面は見逃しておくことになろうが、明らかに1対N的な要素が強まってくると問題視されることになる。今のところは「信書」扱いであるとしたまま、たまたまそれを盗み見ている人がいるという取扱いになっていて、特にサイトの管理人側からすれば、そこまで責任を持ちきれないということで済んでいるのかもしれない。

 通信サービスは、あくまでも1対1であるという前提になっているので、どれだけサービスが多様化しようとも、あくまでも1対1の範疇にあると見なせるような「紐帯関係」の存在が不可欠である。

放送関連・類似でも問題視される

 放送であれば紐帯関係は要らない。しかし、CSアナログ放送の時代に、公営競技を放送するチャンネルについて、サービス向上の一環として電話投票を認めていたのだが、電話投票がセットになった途端に警告される対象となった経緯がある。この件では、電話投票が認められる人は事前に10万円を預けておかなければいけないことになっていたので、結果的には「事前に10万円を預けた」ことをもって「紐帯関係」が有るということになり、おとがめ無しとなった。

 ネットによる動画配信が活発化してきた今、放送類似サービスも多様化してきている。著作権問題を見る限りでは、放送サービスに比べて自由度は低く見えるようだが、逆に放送サービスではないが故に、放送禁止用語などの多くの点で放送としての規制が課せられずにいる。

 放送としての規制が課せられることにでもなれば、これから普及させていこうという矢先だけに、独特のコンテンツを発掘していくのにも制約がかかってこよう。

 オンデマンド的なサービスであれば、ユーザーがオンデマンドする時点で「紐帯関係」を見出しやすい。しかし、ストリーミングで無料広告放送的なサービスを展開している場合には、その点が難しくなってくる。「信書の秘密」によって人権を守るための条項が、逆にそれを担保する仕組みを持たない事業者に関しては憲法違反ではないかとの追及を受けることになりかねない。

       1|2 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.