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» 2006年05月31日 23時58分 公開

麻倉怜士の「デジタル閻魔帳」:大画面時代のスピーカーの選び方 (2/4)

[西坂真人,ITmedia]

――ステレオ鑑賞用に使っていたスピーカーを流用することはできますか?

麻倉氏: 長きに渡るオーディオの歴史で一番のポイントは、オーディオは基本的に映像ナシで進んできたという点です。現在ではそれをピュアオーディオと呼んでいますね。それがレーザーディスクの登場あたりから、映像と音声を一緒に楽しむというスタイルが生まれてきました。この“音のみ”と“映像+音”とではスピーカーに求められる資質が大きく違っているのです。

 ピュアオーディオに求められるスピーカーは、目を閉じて聴いているだけで映像が浮かび上がってくるような「リアリティ」が求められるため、いかに情報量を増やして解像度を高めるかが目標になってきます。あたかも左右のスピーカーの間に、くっきりと仮想の映像が浮かんでくるような、定位感と表現力、さらには音楽性がなければなりません。音楽CDを2chで再生しても、「まるで眼前に映像を観ているようなイメージ」にて、スピーカーからの再生音楽から、豊かなプレゼンスと現場感覚が感じられるような音質設計が必要なのです。

 一方、映像+音の世界では、映像と音声が一体となる融合性、一体感、臨場感なとの条件が重要となります。映像メディアにおける音声は、あくまでも、映像と融合するようなテクスチャーでなければなりません。映像とともにあり、映像をサポートし、映像ともに世界を作り上げていくようなサウンド・キャラクターが望ましいのです。つまり主張と抑制のバランスですね。解像度が高すぎると、そこに映像がプラスされることで情報過多になってしまうのです。

――ということは、ピュアオーディオで最高の評価を受けているスピーカーが必ずしも最適とは限らないわけですね。

麻倉氏: そうですね。むしろ「情報量的にはちょっと少ないかな」ぐらいのスピーカーが大画面テレビとはうまくマッチすることが多いです。“幹”はしっかりしていて欲しいですが、“枝葉”はそれほどしげってなくていいのです。

 また、視聴するコンテンツによっても、スピーカーが違ってきます。映像のサウンドが一体となったコンテンツとしては、映画と音楽(コンサートやライブなど)がありますが、ここで難しいのは、映画の求めている音と音楽の求めているの音は、まったく正反対であるというところです。

 音楽は、特にクラシックのライブでは空間の音(直接音/間接音)をマイクで拾っていく。つまり、元のオリジナルの音があるのです。そこには“自然”というキーワードがあります。一方、映画の場合は、ほとんど人工的に作られた音。セリフも音楽も効果音もすべて後から入れるアフレコです。演出意図に従って、すべて意図的に作られた音、つまり“人工”がキーワードとなります。

 音の聴かせ方にも音には楽音と雑音がありますが、音楽の場合はできるだけ雑音を減らして楽音を聴かせるということが重要になります。一方、映画の効果音は音楽的観点から言うと雑音なのです。映画では、雑音であるこの効果音をいかにリアルに表現するかがポイントとなるのです。

――映画で重要な「セリフ」も、音楽の要素には含まれませんよね。

麻倉氏: そうですね。映画ではセリフの再現性、人間のノドから出る声のスピード感をいかに表現するかが重要となりますが、音楽の世界では人間の声は「歌」です。つまり朗読ではなく“音楽的な声”の表現が必要となります。

 このように音楽と映画は、音の方向性が180度違うのです。それでも、あるときは音楽コンテンツを楽しみ、あるときは映画を満喫したい。ホームシアターにおけるスピーカーの難しさは、ここにあるのです。理想は、映画にふさわしいスピーカーと、音楽にふさわしいスピーカーと2つ置くのがベストなのですが、しかし、それは現実的ではありません。

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