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れこめんどDVD「映画 ブラック・ジャック ふたりの黒い医者」DVDレビュー(2/2 ページ)

» 2006年07月28日 12時28分 公開
[皆川ちか,ITmedia]
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ドクター・キリコ、その生き様に惚れる

 なによりファン的に「待ってました」のドクター・キリコが満を持しての登場。特典インタビューで手塚眞が「TVでは出せないキャラなので、映画でやっと登場させることができた」と語るように、キリコの危なさはBJを凌ぐね。鹿賀丈史のささやくようなウィスパー・ボイスがまたいい具合で、実写で演ってもいいくらい。

 マジな話、この映画で一番の見どころはドクター・キリコなのだ。普段だったら単体で周囲をびびらすBJが、キリコを前にすると、気持ちぐらついて見える。医者としての腕前は置いておいて、キリコはBJより遥かに自信に満ちている。「助からない患者には安らかな死を」をモットーにするキリコは、BJのように悩んだり苦しんだりはしない。自分の行動について後悔もしなければ、矛盾に苦しむこともない。キリコには迷いがない。迷いのない人間は敵役でも(なお一層に?)、魅力的だ。だからキリコとBJが並ぶと、キリコの方が数段自信ありげに見えるのも仕方がない。鹿賀丈史の声を差し引いてもね。

 命を救うのは難しいが、命を安らかに逝かせることはそれほど難しくない。ただ、それは本人のモラルの問題。劇中、キリコが自分の軍医体験をBJに語るシーンで、彼がその点も克服していることを明らかにしている。うーん、余計にキリコ、いい。筋金入りBJ派のピノコだって「ちょっと格好よかった」と言うくらいだからね。

 この劇場版を見て改めて感じたけれど、BJとキリコは対立するというよりも、平行線にある。患者の苦しみを救いたい思いはふたりとも同じ、ただ方法が違う。TV版で繰り返し描かれる通り、BJは少年時代のサバイバル経験から生の方向に向かい、キリコは戦場体験から死に向かう。本質的にはふたりとも同類であり、さらにキリコはBJの恩師・本間先生と同じ言葉を投げかけることもしばしばで、その度にBJを動揺させる。そう、本間先生のあのお言葉です。

 「人間が生き物の生き死にを自由にしようだなんて、おこがましいとは思わんかね」

 原作では、この問いを突きつけられたBJは結局言い返すことができなかった。その辺、映画でもBJは真面目に悩んでいて、その真面目さが原作へのシンプルなリスペクトになっている。さすが実息マコちん、あんた最高だ! しかしBJとキリコが並ぶと、本当に画になるなー。

 ちなみにキリコは現在TVアニメ「ブラック・ジャック21」にもめでたく登場して、お茶の間に不穏なものを垂れ流し中です。いいぞキリコ、21世紀の子供たちにトラウマを植え付けちまえ。そう、DVD にはみんなのアイドル、ピノコをフィーチャーした前座的短編「Dr.ピノコの森の冒険」も収録されて、おっさんふたりの物語をプリティに彩るのだ。ピノコもいいぞ。

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