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情報の消費行動がもたらすネットの変化小寺信良(1/3 ページ)

» 2006年08月28日 03時14分 公開
[小寺信良,ITmedia]

 インターネットの発達により、われわれライターと呼ばれるたぐいの人間は、飛躍的に仕事が楽になった。インターネット以前は書籍を出すとなれば、膨大な書籍・資料を集め、関係者に取材し、また実際に実験・研究し、系統別にまとめておくという下調べが大変であったのである。

 もちろん今でもそれをやらなくて済むようになったわけではないが、Googleの登場を境に、その手間が大きく削減できるようになったのは事実だ。関連するキーワード検索で半日あちこち調べれば、実際に実験・研究する前にある程度の経験値が得られるようなる。

 大学の論文では、同じ研究を誰か他の人がやってないか情報交換するのが当たり前になっているが、それは膨大な時間と研究費の無駄を省く上で有効だからだ。だがそれはあくまでも研究論文の話であり、実際に資本主義に牛耳られる実社会では、そうそううまい具合に情報が手に入ることはなかった。

 だが多くの人が自分の経験や失敗談をWebにアップしてくれているおかげで、「それは無理」ということがわかれば最初からその実験には挑まないし、うまく行くこと、行かないこと別に分けて検証を行なうことで、膨大な試行錯誤の時間が削減できるようになった。いわゆる無駄足を踏む時間は、確かに減ってきている。

執筆の自動化は可能か

 この話は以前も書いたことがあるが、ネットで調べて本が書けるのであれば、サーチエンジンが今よりももっと発達することで、ライターそのものが不要になるのでは、という指摘がある。以前であれば一笑に付してきた話だが、昨今は冗談には聞こえなくなくなってきている。

 米国の金融データ企業である「Thomson Financial」では、各社の決算発表を迅速に記事にして提供するために、コンピュータが記事を生成する「Robo-reporter」を導入していたことを明らかにした。単にプレスリリースを右から左に流すのではなく、過去四半期の財務指標も引っ張り出してくる。決算が発表された0.3秒後には記事なっているというから、スピードでは人間に勝ち目はない。

 これはファイナンス情報だから成立するということもあると思われるが、次第にこのエンジンが洗練されてくれば、多くのジャンルのプレスリリースに応用可能かもしれない。

 正直な話日本のメーカーが行なう記者発表会でも、発表の内容がどんどんマニアックになっていって、理解できていない記者が質疑応答であさってな質問を繰り出すことは珍しくない。AV機器も最近は非常に技術的に高水準の難しいものが多くなってきているが、特に専門性の高いものは、用語・新語・数字の間違いで、とんでもないことになりやすい。

 記者発表会というのは、考えてみればプレスリリースよりも歴史が古い。アナログ時代には、郵便や電話、FAXで記者発表会へ招待し、集まった記者達の前で製品発表するというのが普通であった。カメラマンはそこで写真を撮り、記者は質問してコメントを取る。そしてそれが記事になる。

 だが今は、プレスキットなるものがある。リリース文からデータ資料、製品写真、ソフトウェアであればデモ版まで一式が同梱されており、とりあえずそれさえ手に入れれば、一通りの記事が書けるようになっている。CESなど米国のショーなどでは、物理物としてのプレスキットを用意せず、ネットに全部あるからダウンロードして使ってくれ、というメーカーも増えてきた。

 それでもメーカーがわざわざ人を呼んで説明会を開くのは、発表するリリース文以上の何かを記事の中に加えて欲しいからである。だから広い会場を用意してショー形式のオープニングにするわけだし、プレゼンテーションにも役員・部長クラスが登壇するわけだ。

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