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» 2006年09月06日 11時00分 公開

ハイビジョン作品を“買う”楽しみ麻倉怜士の「デジタル閻魔帳」(4/4 ページ)

[西坂真人,ITmedia]
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――「風と共に去りぬ」が映像の感動なら「ザルツブルグ音楽祭・椿姫」は音響の感動ということですね。

麻倉氏: そうです。椿姫はもちろん映像も素晴らしく、映画とはまったく違ったいかにもハイビジョンらしいクッキリした精鋭感のあるもので、演出も素晴らしいし、舞台衣装も素晴らしい、演奏はウィーン・フィル、アンナ・ネトレプコの美しいビジュアル……と、最高尽くしなのですが、唯一最高でなかったのは音声で、今年の1月2日に放送された2ch版は、いまひとつ音に広がりのないものでした。ですが実は5ch版というのがあって、それが7月29日に放送されたのです。この5ch版の音声は圧倒的な素晴らしさで、まるでザルツブルグ歌劇場の中央の座席で眼前で聴いているかのような新鮮な臨場感を醸し出していました。

 ハイビジョン放送にはこのように“驚異の高画質”と“驚異の臨場感”があるのですが、BD-ROMはこれがさらにクオリティが上がるということで、すごく期待しているのです。

――BD-ROMはデジタル放送よりもさらに高画質で高音質になる、ということですね。

麻倉氏: ええ。まず画質面ではハイビジョン放送はMPEG-2ですが、BD-ROMはMPEG-4AVC、VC-1など新世代コーデックを採用しており、これらにはハリウッドスタジオの画質へのこだわりがこめられています。音質面でもAACを採用するハイビジョン放送に対して、BD-ROMはドルビー/DTSの次世代音声のロッシーコーデックをはじめロスレス圧縮、リニアPCMで5.1chと期待のテクノロジーが満載です。

 特にリニアPCMの文化が入ってきたのが楽しみですね。DVD以降は音声も圧縮という文化になっていましたが、ここにきて音声非圧縮という世界がまた広がってくると考えると、ワクワクします。

 そのほかにも、メイキングなどプレミアムコンテンツの充実やパッケージデザインのこだわりなど、コレクションアイテムとしてBD-ROMの果たす意味合いは極めて大きいですね。

photo BD発表会の会場では各社のBD-ROM試作機もお披露目。写真は、麻倉氏いわく「デザインが秀逸」の日立製作所BDレコーダー試作機

――フルハイビジョンというキーワードでみたBD-ROMは?

麻倉氏: 薄型テレビやプロジェクターの今後のトレンドは“フルハイビジョン”ですが、デジタル放送ではまだフルハイビジョンのコンテンツが少ないです。BSデジタルを中心にフルハイビジョン化の流れはおこりつつありますが、伝送路はあっても、撮っているカメラ・編集機はフルハイビジョン対応になっていないという現実もあります。放送でフルハイビジョンを本当に享受できるのには、まだ少し時間がかかりそうですね。

 そこでBD-ROMの持つ意味が出てくるのです。BD-ROMは1920×1080のフルハイビジョン映像ですので、フルハイビジョン対応製品の表示性能をフルに引き出すことができます。しばらくはBD-ROMがテレビのフルハイビジョン化を牽引していくでしょうし、またBD-ROMが、フルハイビジョンテレビの画質向上のトリガーにもなるでしょう。次世代エンタテインメントの開拓者として、BD-ROMには大いに期待したいですね。

――となると、HD-DVDかBD-ROMかという問題はどうなりますか。

麻倉氏: ワーナー・ホーム・ビデオのリリース計画が面白いです。HD-DVDもBD-ROMもまったく同じタイトルで、しかも画質もまったく同じ。つまりほとんど同じファイルなのですね。音声がドルビー・デジタル・ブラスか、ドルビーデジタルかの違いはありまずが。一月にCES(コンシューマー・エレクトロニクス・ショー)でワーナーの幹部にインタビューした時に「どちらも同じファイルです」と言っていたのが、現実になりました。パラマウントのリジンスキー社長も、同じ意見でした。この流れは、他社も追求しているようで、HD-DVDとBD-ROMの同一クォリティでのダブルリリースが増えるでしょう。となると、どつちのプレーヤーでも、問題ないということになりますね。

 しかし、BD-ROMにはダブルレイヤーで50Gバイトという切り札があります。その大容量を活かして、ロスレス圧縮やリニアPCM音声を入れるなどの工夫ができますね。ダブルリリースで、BD-ROMならではのハイクオリティを獲得しようとしているソフトメーカーもあります。とはいえHD-DVDでも大容量化しますので、条件は似てきます。ユニバーサルやディズニーのようにどちらか一方しか出さないというスタジオもあります。それらの要素を総合すると、結局、どちらもサバイバルするようになるのではという観測が成り立ちますね。

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麻倉怜士(あさくられいじ)氏 略歴

 1950年生まれ。1973年横浜市立大学卒業。 日本経済新聞社、プレジデント社(雑誌「プレジデント」副編集長、雑誌「ノートブックパソコン研究」編集長)を経て、1991年にデジタルメディア評論家として独立。自宅の専用シアタールームに150インチの巨大スクリーンを据え、ソニー「QUALIA 004」やBARCOの3管式「CineMAX」といった数百万円クラスの最高級プロジェクターとソニーと松下電器のBlu-ray Discレコーダーで、日々最新AV機器の映像チェックを行っている、まさに“映像の鬼”。オーディオ機器もフィリップスLHH2000、LINNのCD12、JBLのProject K2/S9500など、世界最高の銘機を愛用している。音楽理論も専門分野。
 現在は評論のほかに、映像・ディスプレイ関係者がホットな情報を交わす「日本画質学会」で副会長という大役を任され、さらに津田塾大学の講師(音楽史、音楽理論)まで務めるという“3足のワラジ”生活の中、精力的に活動している。

著作
「久夛良木健のプレステ革命」(ワック出版、2003年)──ゲームソフトの将来とデジタルAVの将来像を描く
「ソニーの革命児たち」(IDGジャパン、1998年 アメリカ版、韓国、ポーランド、中国版も)──プレイステーションの開発物語
「ソニーの野望」(IDGジャパン、2000年 韓国版も)──ソニーのネットワーク戦略
「DVD──12センチギガメディアの野望」(オーム社、1996年)──DVDのメディア的、技術的分析
「DVD-RAM革命」(オーム社、1999年)──記録型DVDの未来を述べた
「DVD-RWのすべて」(オーム社、2000年)──互換性重視の記録型DVDの展望
「ハイビジョンプラズマALISの完全研究」(オーム社、2003年)──プラズマ・テレビの開発物語
「DLPのすべて」(ニューメディア社、1999年)──新しいディスプレイデバイスの研究
「眼のつけどころの研究」(ごま書房、1994年)──シャープの鋭い商品開発のドキュメント


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