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れこめんどDVD:「オリバー・ツイスト(HD DVD)」DVDレビュー(3/3 ページ)

» 2006年09月25日 14時24分 公開
[飯塚克味,ITmedia]
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ロンドンの街並みは3D映画のような立体感

 CH-8で、オリバーはロンドンに到着。活気溢れる街並みと、足が痛んで身動きできないオリバーの姿が対照的だ。DVDの画質だとオリバーの足が汚れているのか、痛んでいるのか少し分かりづらいのだが、HD DVDだと明らかに痛んでいて、歩くのもしんどそうに感じる。

 オリバーはここで早業ドジャーと出会い、泥棒の世界に足を踏み入れていくのだが、ドジャーとオリバーが歩く街並みの立体感はまるで3D映画を見ているかのようなクリアさと言えよう。DVDでは気づかなかったが、消防用の馬車が行ったり、石畳に草が生えているなど細かい描写もより鮮明になってきた。ドジャーが盗むパンやハムの感じ方もDVDとは全く異なる。

 CH-10でオリバーは泥棒の元締めフェイギンと出会う。その翌朝、眠っているオリバーに声をかけるフェイギンは逆光なのだが、薄っすらとディテールが表現されているのには感心した。オリバーが眠っていると確信したフェイギンは隠し持っていた財宝を1人で眺めるのだが、時計や宝石の輝き具合もDVDとは段違いだった。やがてオリバーは1人前のスリになるべく訓練を受け、初めて現場に立ち会うのだが、そこで運命の出会いが待っていた。ドジャーが目をつけたのは本屋で立ち読みをしていた紳士ブラウンロー。一瞬でハンカチを盗まれてしまうが、本屋の声に驚いたブラウンローは間違えてオリバーを追ってしまう。オリバーは逮捕されたものの、すぐに無実が証明される。ブラウンローはその場で気を失ったオリバーを家に連れて行くことにする。

 CH-15ではオリバーが目覚め、ブラウンロー氏の家で幸せなひと時を過ごす様子が描かれるが、家に飾られた花やクッション、また画面の隅に少しだけ映りこんだシャンデリアなどで彼の生活レベルが表現されている。DVDだとそうした小道具の存在感は希薄になってしまい、会話の中身や推測でブラウンローという人物を理解することになるのだろうが、やはり映画だから映像で細かいことを認識したいものだ。ブラウンロー氏の言いつけで本を返しに行ったオリバーはかつての仲間に見つかり、再び悪の世界に追いやられてしまう。

 CH-17では閉じ込められたオリバーが見つめる窓の外の風景が印象的だ。少しぼやけたような感じも残しつつ、ディテールはしっかり表現されたロンドンの風景。HD DVDで見れば、自由を取り戻したいオリバーの心情が伝わってくるが、DVDだと合成に失敗したデジタル臭いカットに見えてしまう。この差は大きいだろう。

 オリバーはこの後、フェイギンの仲間であり、目的のためには人殺しもためらわない本当の悪党ビル・サイクスと出会い、とんでもない危機に陥るのだが、以降のストーリーは見てない人のために伏せておいた方がいいだろう。ただ見終わった時には、他のポランスキー作品と違い、大きく成長した1人の少年の姿を確認でき、清々しい気持ちに浸れることは間違いないとだけ言っておこう。

ポランスキーが「オリバー・ツイスト」を撮った理由

 先に「戦場のピアニスト」は興行的に成功を収めたと書いたが、この「オリバー・ツイスト」は興行面ではかなり厳しい状況になった。製作費5000万ドル(日本の配給会社は80億円と発表)に対し、全米での興行収入は約2000万ドル。ランキングではベスト10に入ることもなく、期待されたアカデミー賞でもノミネートされることもなかった。日本での興行も東京国際映画祭で話題になったものの、いざ公開という時点では大きな話題になることもなく、静かに興行を終えた印象だった。

 また公開時の批評の多くは、この作品がなぜ今作られたのかということを責めるかのような意見だったが、これはポランスキー監督が「自分の子供たちに見せられる作品を作りたい」と切望した結果だ。現在の日本であれば、格差社会問題が浮上してきているので、孤児たちの生き様をそこに重ね合わせる見方もできるだろうが、ポランスキーの心の中はもっと純粋な気持ちであったのではと思える。過去の呪縛からようやく解かれ、未来に目を向けるようになって、初めてこうした作品を生むことができたのだ。

 とはいえポランスキーが完全に過去に起こった悲劇を忘れている訳ではないことは、フェイギンがオリバーに、過去に犠牲になったスリの子供が絞首刑になったことを必要以上に細かく語る場面からも明らかだろう。「オリバー・ツイスト」はポランスキーのキャリアの中で生まれるべくして生まれた作品なのである。

文句なしの高品質ソフト。ただし特典には不満あり

 ただこのHD DVD、高品質ソフトとしては満点レベルなのだが、もっと広い視点で見ると問題もある。特典が予告編とキャスト・スタッフのプロフィールのみなのだ。日本版の予告編はHD映像で収録されており、それ自体は高く評価したいのだが、DVD2枚組のプレミアム・エディションに収録された「メイキング」や「記者会見」といった数々の特典は一切収録されていない。

 DVDと発売日が近く、販売戦略上、何か問題もあったかもしれないが、せっかくの大容量をいかしきれなかったのは残念だ。同時発売された「戦場のピアニスト」のHD DVDが恐ろしいほどの高画質を実現し、同時に可能な特典を全て収録していることと比較すれば、技術的にできないことはないはずだ。

 現在のところ、本作の特典を見たければプレミアム・エディションのDVDを買うしかないが、HD DVDのプレーヤーを持っているユーザーにとっては選択の難しいところだろう。しかし1度この映像に触れてしまったら本編をHD以外のフォーマットで見るのはかなり無理があるので、ファンならば両方買うしかない。いずれ次世代ディスクが普及した折には、特典も収録したバージョンの発売も望みたい。

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