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れこめんどDVD:「キングダム・オブ・ヘブン ディレクターズ・カット(Blu-ray Disc)」DVDレビュー(3/3 ページ)

» 2006年12月22日 09時11分 公開
[飯塚克味,ITmedia]
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Blu-ray Discで活かされた20万人の軍勢シーン

 CH-27で物語は大きく動く。和平を保ってきたキリスト教徒とイスラム教徒の間で問題が発生する。過激派のルノー率いる軍勢がサラセン人の隊商を襲撃してしまったのだ。このことで、イスラム側はカリスマ的指導者サラディン率いる20万の軍勢をエルサレムに向かわせる。

 CH-30ではその軍勢がいよいよ姿を現すのだが、兵士の1人1人をつぶさに確認でき、20万という圧倒的な数字にも納得がいくだろう。DVDであればその辺のディテールがぼやけて、インパクトに欠ける画作りになってしまう。エルサレムの前線にあたるイベリンにいたバリアンはエルサレム王が仲介に来るまでの間、多勢に無勢で戦うことになるのだが、ロングショットでも騎馬の数まで見える映像の表現力には完全に圧倒された。

 バリアンは敗北したものの一命を取り留める。その後ようやくエルサレム王は姿を現し、サラディンと2人で会談。事件の張本人であるルノーを罰するということで、再び和平を保つのだが、この平和も長続きするものではなかった……。

 この後、王の死去があり、シビラの息子が即位するのだが、その子もハンセン病であることが分かり、行く末を案じたシビラが息子を殺害する場面はかなり衝撃的だ。劇場版では自由のない王族という程度の印象だったが、息子殺しという深い業を背負ったシビラの心の傷が見ているものにも強く刻み込まれるようになった。

 その映画の後半1時間は凄まじい戦闘が描かれ、現代ならではの歴史解釈に基づく感動的なフィナーレを向かえることとなる。

 最近では「父親たちの星条旗」と「硫黄島からの手紙」というイーストウッド監督の2作品で戦争を両面から見つめるようなことも可能になってきたが、「キングダム・オブ・ヘブン」でも同様のスタンスが保たれている。

 聖地とされ、多くの軍勢によって守られてきたエルサレムが実は富と権力の巣窟になっていたというあまりにも空しい状況。自分たちを神の軍勢と信じ戦った十字軍の一方的な思い込みは、まるで国連を無視し、イラクに乗り込んでいったアメリカと必然的にダブってくる。映画の中では敵として描かれるサラディンの軍勢だが、最終的には「ブレードランナー」のレプリカントたちと同様、実は主人公たちよりも崇高な存在だったことに気づかされる点も忘れがたい。

 映画の中で再三繰り返される「信仰とは神の名を出して、ひれ伏すことではなく、正しい行いをすることだ」というテーマもディレクターズ・カットでより明確になった。神の存在を否定しつつも、民衆のために身を粉にして働くバリアンの前に意外な形で神は現われる。そしてエンディングで故郷に帰ったバリアンが見つめたものも、劇場版とは大きく異なっていた。普通に風景を見ているような編集の劇場版だったが、神の存在を明示するあるものを見ていたのだ。この辺の演出の冴えは是非自身の目で確認してもらいたい。

DVDにはもう戻れない

 それにしても、このディレクターズ・カットを見た後ではオスカー受賞の「グラディエーター」がいかにもなハリウッド映画にしか見えなくなってしまった。それほどさまざまなテーマをじっくりと掘り下げた大傑作なのだが、皆さんの目にはどう映っただろうか。

 北米版のDVDではこの本編に加え、2枚の特典ディスクがセットになったBOXが発売されている。今回は予告編のみで他の特典の収録は見送られたが、いずれ陽の目を浴びることを期待したい。

 ポップアップ・メニューは操作はしやすいものの、チャプター画面が1つずつしか表れないことが惜しまれる。選択ボタンを押した時の操作音が大きすぎるのも今後の修正点のひとつだろう。

 だが、本編のクオリティは大画面でも劇場以上の興奮が得られるとんでもないレベルだ。値段も4935円とかなり高額だが、1度この映像を見てしまうと2度とDVDには戻れない。劇場で未見の方も多いだろうが、そうした人にも納得のいく存在が出てきたことは、映画館で興行する側からすれば脅威を感じるかもしれない。今後、ますますのクオリティアップが期待できるだけに注視していかねばならないだろう。

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