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れこめんどDVD:「キングダム・オブ・ヘブン ディレクターズ・カット(Blu-ray Disc)」DVDレビュー(2/3 ページ)

» 2006年12月22日 09時11分 公開
[飯塚克味,ITmedia]

追加シーンで人物描写がより濃厚に

 CH-1ではオーランド・ブルーム演じる主人公バリアンの妻が埋葬されている。積もることなく、地上を舞い続ける雪の描写が立体感をともない、映像に深みが増しているのが分かるだろう。埋葬を行っている者たちの間で十字架にまつわる議論が行われている場面は追加シーン。矛盾点をうまく突いていて興味が湧く。十字軍の軍勢が通過するところでは馬の足音がDVDよりも緻密になった印象だ。

 CH-2では牢に幽閉されたバリアンが亡き妻との幸せな日々を思い浮かべる場面が追加。劇場版では妻との関係を描く描写はかなり省略されていたが、この場面が増えたことで妻が死産し、自殺したことがより強調されることとなった。十字軍の一行も劇場版ではすぐバリアンを訪ねたが、宿で食事する場面が増えている。かすかな光源でとらえた薄暗い映像はDVDではかなり辛いものになるだろうが、Blu-ray Discではその辺も極めて自然に再生している。

 CH-4では牢を出て、鍛冶仕事に励むバリアンの姿が描かれる。小さな子供服を燃やす場面が印象的だ。CH-5ではバリアンの父で十字軍の騎士でもあるゴッドフリー(リーアム・ニーソン)が妻との幸福な日々を回想する場面が追加。奇しくもバリアンの妻に対する思いにつながる効果的なショットとなっている。

 CH-6ではバリアンを訪ね、自分が父親であることを告げるゴッドフリーとのやり取りが描かれる。高画質になったことで、両者の間に潜む感情を、お互いの表情から感じ取れるようになった。特に台詞が全くないオーランド・ブルームの演技には注目したいところだ。

 CH-9ではゴッドフリーに合流し、エルサレムに向かうことにしたバリアンが、森で腕試しのテストをされる場面だ。周辺の川のせせらぎや虫や鳥の鳴き声が自然な形でサラウンドしている。その後、バリアンを追う一行がゴッドフリーの軍勢と一戦を交えるのだが、生き残った兵士を殺す場面などが増えている。「ブラックホーク・ダウン」のディレクターズ・カットでも残虐な場面が増えていたが、戦争を描く上ではリアルな描写は必要不可欠なものだ。

 CH-12では先の戦闘で負傷したゴッドフリーが徐々に体調を崩していくのがよく分かる。顔に出る汗、生気を失っていく目つきなど、リーアム・ニーソンの微妙な演技がより浮かび上がってきた。彼の死期が近づいてくるのがよく認識できるので、バリアンに後を告がせる場面も情感が増してきたのが分かるだろ。

船内、砂漠、街並み……圧巻のハイクオリティ映像

 CH-15はゴッドフリーの死後、エルサレムに向かう船の描写。嵐に遭遇し、船は沈没するのだが、リアルな映像に固執するリドリー・スコットは下手な照明を行っていない。そのため、船内はほとんど暗闇に近いのだが、Blu-ray Discでは何とか月明かり程度の感覚を維持できている。DVDならほとんど潰れてしまう場面だ。

 CH-16で、バリアンは初めてサラセン人と遭遇。馬の取り合いで決闘を行うのだが、刀で切られた時の鮮血が生々しい。砂漠の描写も「アラビアのロレンス」を思わせる美しさだ。

 CH-17でエルサレムに到着したバリアンは、キリストが磔になったゴルゴダの丘に行き、妻の十字架を埋める。バリアンは聞こえると思っていた神の声を聞くことができず、大きく失望することになる。ここでは小高い丘から見た街並みがすこぶる美しく、HD画質のレベルの高さを感じられた。

 CH-19ではエヴァ・グリーン演じるヒロイン、シビラとバリアンの出会いが描かれる。エルサレム王の妹であるシビラは王族らしい装飾を身に施しているのがよく分かる。いずれもアップに耐えうる見事な出来で、映画ならではのゴージャスな感覚を味わうことができるだろう。

 この辺からエルサレムに暮らす貴族の生活ぶりも見え始めるのだが、衣裳、美術ともに圧巻の出来栄えだ。細部に至るまで隙がなく、リドリー・スコット監督がどれだけこの作品に入れ込んでいたのかもよく伝わってくる。

 CH-20ではバリアンのよき理解者となるディベリウス卿が登場。演じているのはジェレミー・アイアンズだが、顔に傷痕も作り、ただ者ではないオーラが漂っている。

 CH-23で、バリアンはゴッドフリーの後継者としてエルサレム王に面談をする。王はハンセン病を患っており、全編通じて仮面での出演だ。演じているのは演技派エドワード・ノートン。表情なしに体と声の芝居だけで王の威厳を表現するのはさぞかし苦労が多かったと思われるが、ここではエルサレムの守りやどんな人にも公平な巡礼を行わせたいという場面が追加され、王の人間性もより濃く描かれていた。

 CH-24はイベリンの土地を与えられ、民とともに井戸を掘り、開墾していくくだりだ。地下から水が湧き出るところではハリー・グレッグソン=ウィリアムズの楽曲の出来も素晴らしく、感動的な場面に仕上がっている。特にBlu-ray Disc版では水が黄金のように輝いて見えたことも特筆したい。

 CH-26では劇場版になかったバリアンとシビラのラブシーンがかなり大胆に描かれる。カットされたのは、この時点で2人が結ばれるのは早すぎるという判断だったのかもしれないが、ごく自然な流れなので、違和感なく見ることができた。

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