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デジタル分野総ナメ――「2006年デジタルトップ10」麻倉怜士のデジタル閻魔帳(4/4 ページ)

» 2006年12月27日 08時56分 公開
[渡邊宏,ITmedia]
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――2位はコルグのハンディレコーダー「MR-1」です。SACDにも使われているDSD(ダイレクトストリームデジタル)形式での録音が可能ですね。

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麻倉氏: ついにハンディレコーダーの本命が登場したという感じです。これまではPCM方式によるCDクオリティでの録音が主流でしたが、MR-1でDSD録音してみると「音の魅力ってなんだろう」と考えさせられるほど、音が違います。

 PCMの音はキレイだけどクールで、時として冷たい感じがすることもありますが、DSDはとてもエネルギッシュ。音のミューズ(ギリシャ神話で歌や音楽、芸術などを司る女神)がこちらへ向かってくるかのような感動を与えてくれます。

 最近はCDでもマスターはワンビット化されていることが多いのですが、そうした意味ではプロ用の録音機材がそのまま手元に来たようなものです。残念なのは、録音した音源をSACDプレーヤーで聴ける形式にする手段がないことです。ファイルフォーマットの変換は広範囲に可能ですし、DSD対応のVAIOなら独自形式のディスクにできるのですが……。

 DSD録音したファイルを、SACDプレーヤーで再生できるような業界的な統一規格、コンセンサスが欲しいですね。それにしても音楽の底知れぬ魅力を、体感させてくれる素晴らしいレコーダーといえるでしょう。

――いよいよ1位です。1位はパイオニアのフルHDプラズマディスプレイ「PDP-5000EX」です。50V型では世界初のフルHD対応が大きな話題になりました。

麻倉氏: PDP-5000EXは、テレビディスプレイがここまでの表現力を得たという金字塔ともいえる製品です。これまでに開発されてきた数々の技術がフルHD製品に投入されることは確実視されていたのですが、実際に搭載された画面を見ると、息をのむ映像美が実現されていました。

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 黒の再現性、深遠さを感じさせながら、非常に安定した映像を映し出します。ただ画素だけがあるのではなく、絵を表現するだけのリソースも持ち合わせ、フルHDの先鋭感も感じさせます。映像が持つ表現力、エネルギー感、力といったものを認識させます。

 フルHDではない放送を見てみても、出演者の表情や目の輝きはもちろん、パーソナリティや心情までも伝わってくるようです。そこまでもモニター力があることには本当に驚かされます。細部まできちんと黒が表現されているので、フルHDではない放送もとてもきれいに映し出します。

 放送だけではありません。Blu-ray Discの映画を映しだしても素晴らしいです。フィルムらしい奥行き感や滑らかな階調感を表現し、コンテンツの力を引き出してくれるディスプレイです。フルHDの世界で「表現力ディスプレイ」という流れを作り出したのはパイオニアですが、PDP-5000EXはこれからのフルHD時代を牽引する今年No.1の製品と言えるでしょう。


麻倉氏: 今年もさまざまなデジタル製品が登場しましたが、「フルHD」というプラットフォームが確立した故に花開いたという製品が多いように思います。ただ、フルHDも次のステージに向かって動き出しています。

 ひとつは解像度をアップする動きです。「スーパーハイビジョン」は2015年に試験放送を行うスケジュールで準備が進められていますので、そう考えるとあまり悠長に構えているわけにもいきません。2007年か2008年には2K4Kという動きが出てくるのではないかと思います。

 Blu-ray Discは「最後の光ディスク」を名乗っていますが、これからのホームエンタテイメントでも、「パッケージ」の持つ意味は残ります。スーパーハイビジョン時代となっても、対応できるメディアならば生き残るはず。ディスプレイや放送だけではなく、パッケージも進化しているのは心強いですね。

 ワン・アンド・オンリーのテクノロジーはヒトに感動を与えます。掃除機やDVD-Rといった何気ないものでも、ワン・アンド・オンリーならばヒトはそこから大きな感動を得ることができます。私もダイソンのコードレス掃除機にあまりにも感動したので、ACタイプもダイソンに買い換えてしまったぐらいです(笑)


麻倉怜士(あさくられいじ)氏 略歴

 1950年生まれ。1973年横浜市立大学卒業。 日本経済新聞社、プレジデント社(雑誌「プレジデント」副編集長、雑誌「ノートブックパソコン研究」編集長)を経て、1991年にデジタルメディア評論家として独立。自宅の専用シアタールームに150インチの巨大スクリーンを据え、ソニー「QUALIA 004」やBARCOの3管式「CineMAX」といった数百万円クラスの最高級プロジェクターとソニーと松下電器のBlu-ray Discレコーダーで、日々最新AV機器の映像チェックを行っている、まさに“映像の鬼”。オーディオ機器もフィリップスLHH2000、LINNのCD12、JBLのProject K2/S9500など、世界最高の銘機を愛用している。音楽理論も専門分野。
 現在は評論のほかに、映像・ディスプレイ関係者がホットな情報を交わす「日本画質学会」で副会長という大役を任され、さらに津田塾大学の講師(音楽史、音楽理論)まで務めるという“3足のワラジ”生活の中、精力的に活動している。

著作


「松下電器のBlu-rayDisc大戦略」(日経BP社、2006年)──Blu-ray陣営のなかで本家ソニーを上回る製品開発力を見せた松下の製品開発ヒストリーに焦点を当てる
「久夛良木健のプレステ革命」(ワック出版、2003年)──ゲームソフトの将来とデジタルAVの将来像を描く
「ソニーの革命児たち」(IDGジャパン、1998年 アメリカ版、韓国、ポーランド、中国版も)──プレイステーションの開発物語
「ソニーの野望」(IDGジャパン、2000年 韓国版も)──ソニーのネットワーク戦略
「DVD──12センチギガメディアの野望」(オーム社、1996年)──DVDのメディア的、技術的分析
「DVD-RAM革命」(オーム社、1999年)──記録型DVDの未来を述べた
「DVD-RWのすべて」(オーム社、2000年)──互換性重視の記録型DVDの展望
「ハイビジョンプラズマALISの完全研究」(オーム社、2003年)──プラズマ・テレビの開発物語
「DLPのすべて」(ニューメディア社、1999年)──新しいディスプレイデバイスの研究
「眼のつけどころの研究」(ごま書房、1994年)──シャープの鋭い商品開発のドキュメント


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