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知財推進計画が目指す「コンテンツ亡国ニッポン」小寺信良(2/3 ページ)

» 2007年06月11日 08時00分 公開
[小寺信良,ITmedia]

 これまで筆者は何度か著作権の問題を扱ってきたが、常に親告罪であるということはしつこく書いてきたつもりだ。著作権法では、権利を保有している本人のみが侵害を訴えることができ、第三者が勝手に侵害を訴えることができないということである。

 この親告罪という法制度の性質についても、知的創造サイクル専門調査会の第8回の資料に「法令用語辞典」からの抜粋が記されている。簡単にいうならば、犯罪として軽微なものについては、被害者が「まあいいじゃん」と許してしまえるようにしようということだ。例えば過失傷害や、親族間の窃盗などがこれにあたるだろう。

 もうひとつのパターンは、犯罪として立件することがかえって被害者のためにならない場合だ。名誉毀損などがこれにあたる。例えば「小寺はズラ」というデマを流布した人間を、筆者が名誉毀損で訴えたとする。するとネットでは「小寺がズラ疑惑で訴えたらしい」「でもホントはズラなの?」「植えた髪はわからない」などと騒ぎになり、かえって余計な疑惑を広げる結果となってしまう。これは筆者のためにならないので、訴えずに済ませると判断するわけである。

 実は著作権法というのは、厳密に適用しようとすればするほど、新しく発生する文化や流通を阻害するという側面を持っている。例えばアニメやマンガは、日本の重要な輸出コンテンツとして積極的な展開が望まれている分野だ。だがこの分野がここまで成長したのは、「コミケ」があったからであり、同人誌文化がもともと権利者から、「ま、いっか」と許容されてきたからである。その中から多くのクリエイターが産まれ、コンテンツとして成立するルートが出来上がっていった。

 現在の巨大アニメ産業は、著作権法の親告罪的性格、「ま、いっか」から始まったと言える。

 たかだか、と言ったら権利者の皆さんは怒るかもしれないが、海賊版を潰すために、天地がひっくり返るほどの著作権法大改革をやってのけるというのは、ものすごく乱暴な話だ。つまりこれは、著作権侵害を関係ない第三者でも訴えることができるようにするということだからである。

 ただ第三者といっても、警察がアキバの路地裏で直接違反者を検挙するということにはならないだろう。なぜならば警察が独断で動けば、民事非介入の大原則が崩れてしまうからである。じゃあ誰が訴えるのか。

 ここまで考えれば、実は著作権法の非親告罪化の動きは、海賊版対策という前提を媒介として、裏側では権利者団体の強制力強化へと繋がっているのではないか。

コピーと創造の境目

 もちろん非親告罪とする違法行為は、ある特定の場合について限られなければならない。その「場合」とは、知的創造サイクル専門調査会の第8回の資料の中では、「海賊行為の典型的パターン」と言及されている。まあこれはこれでよくわからない。

 それならばここで一度、海賊版というものの定義をしっかり線引きしておく必要があるだろう。推進計画などで述べられている海賊版とは、いわゆる「デッドコピー」であるという暗黙の了解の元に書かれている。デッドコピーの何が悪いかと言えば、それはまるっきり同じものを作ることで正当の複製権を侵害しているからであり、ブランドの偽造は「信用のフリーライド(ただ乗り)」だからである。これらデッドコピーの中には、クリエイティブな要素はない。むしろ本物に限りなく似せるための製造技術であったり、購入者に勘違いさせて買わせる巧妙なセールス手法である。

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