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コラム
» 2007年08月06日 11時40分 公開

ビデオカメラに飛び火するハイビジョン戦国時代小寺信良(3/3 ページ)

[小寺信良,ITmedia]
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AVCHDのゆくえ

 AVCHDという規格が、この大盛況を生んだことは間違いない。だがその技術的意味合いは、当初よりも変わってきている。

 この技術のキモは、もともとSDしか書けないDVDに、H.264で高圧縮してHDの映像を書くことであった。だが実際の商品の売れ筋は、DVDモデルからHDDモデルにシフトしつつある。さらに長い目で見て、メモリメディアの容量が現在のHDDのように30GBを超えるようになってくれば、HDDはやがて役目を終えるときが来るかもしれない。

 これはすなわち、AVCHDの「DVD書き込み」というソリューションは、登場して1年足らずで役目を終えつつあるということである。ただ規格の骨子、H.264圧縮でBDコンパチファイルフォーマットという点は、今後の落としどころがDVDからBDに変わるだけで、残っていく可能性はある。

 さらに日立がBDカムをリリースするということが、AVCHDというブランド力を揺るがす結果となったのも、また事実だ。もともとAVCHDのDVD書き込みソリューションは、BD搭載への言わば「繋ぎ」として生まれたものであるから、カメラがBDを搭載することは、技術の進歩としては正しい。

 ただBD搭載のメリットを挙げていけば、「DVDメディアを使っていたら高画質で15分しか撮れないじゃないか」というところに行き着く。つまりAVCHDに牽引されたハイビジョンカメラブームに居ながら、どうしてもAVCHDのDVD書き込みソリューション否定がスタートラインになってしまうのである。

 事実、今回のBDカムは、AVCHD規格とはまったく関係ない純粋なBD規格のカメラとなっている。DVDの書き込みもできるが、これはAVCHDフォーマットが書けるわけではなく、SDにダウンコンバートして、DVD Videoが作れる機能である。

 さらにHDDやメモリがカメラの主流になり、BDカムが現実のものになってくると、DVDに書かないのにAVCHDフォーマットであることに、どれだけの意味があるのか。あるいはAVCHD陣営が今後BDのカメラをリリースしたとき、それはBDなのかAVCHDなのか。非常にややこしい未来が待っている。

Full HiVisionの意味と価値

 また今回のカメラ戦争でもうひとつのキーになってくるのが、「1920×1080 Full Hi-Vison」である。これまでソニーは「1080 Full HD」というブランド戦略で差別化してきたわけであるが、これの意味するところは、縦の解像度が1080iであるということであって、横の解像度が1920ピクセルであることは保証しない。つまり実際には、横ピクセルは1440の部分があるということである。

 そう考えると、日本の家電業界の中には、いつの間にか3段階のハイビジョンが存在することになっている。1366×768が「普通のハイビジョン」、1440×1080が「Full HD」、1920×1080の「Full Hi-Vision」。なんだそれ? と思われることだろう。筆者もそう思う。

 さてこのFull Hi-Visionだが、各社いろいろな事情があって、撮像素子から記録方式に至るまで1920×1080を実現できていなかった。例えばソニーは、撮像素子の画素数は十分としながらも、実際にはクリアビッド配列による画素補間技術を使っている。記録は1440×1080である。

 パナソニックも事情は似たり寄ったりで、初期のAVCHD機は、画素数は3CCDによる画素ずらしで補間しており、記録は同じく1440×1080であった。

 これはもともとHDV規格も1440であった理由とも重なるが、人間の目は横方向の解像度感度が鈍い。したがって1440を1920にすることによるビットレートの増加分に比べて、映像品質の向上率がリニアに上がってこないのである。

photo 世界で初めて“Full Hi-Vison”を実現した日本ビクターの「GZ-D7」

 あえてそこに食いついたのが日本ビクターだった。初代Everio HD「GZ-HD7」では、撮像素子は3CCDによる画素ずらしだが、記録系で横1920のFull Hi-Visonを実現、注目を集めた。ただこの秋に投入のモデルは、手ブレ補正を電子式にしたため、1440×1080になってしまった。GZ-HD7は光学式手ブレ補正の効きの悪さがユーザー間で不満となっており、それを解消しようとしたものだろう。だが差別化としてのFull Hi-Vison記録をやめてしまっては元も子もない。

 ビクターの戦略を見て追従したのか、パナソニックは初号機からわずか4カ月で記録系を1920に向上させたモデル「HDC-SD3」を投入してきた。もともと同社はH.264のハイプロファイルエンコードに関しては、Blu-rayの開発時からのエキスパートなので、ピクセル数の増分を、圧縮率を稼ぐことで相殺できたわけである。

 一方でキヤノンの設計は、それらとまったくの逆を行っている。撮像素子であるCMOSのほうを1920×1080のFull Hi-Vison化し、記録系は1440×1080とした。撮像のときに妥協してもいいことはないというポリシーが、いかにもカメラメーカーである。

 これまでの製品経緯を見ると、Full Hi-Visionと言いつつも、なかなか撮像素子と記録系両方で1920×1080を実現できていなかったことがわかる。だが日立のBDカムは、初めて撮像素子と記録系両方で1920×1080のFull Hi-Visionを実現した。地味なポイントだが、実はカメラ史の中でかなり画期的な出来事なのである。

 もっとも画質は、それだけで決まるわけではない。肝心のレンズがどれぐらいのクオリティなのかが、実はまだわからない。こればかりは、実機で撮影してみる以外に評価のしようがない。

 だがテレビと同じように、真のハイビジョンを極めていけば、撮像素子と記録系で1920×1080のFull Hi-Visionというのが、ビデオカメラでも当面のトレンドとなるだろう。これはテレビでもまったく同じ議論があったわけだが、「1920なくても十分ですよ」というのはユーザーが決めることで、メーカーが決めることではない。

 規格で1920×1080と決まっている以上、そこに届いていないのであれば、いつかは届くだろうと皆思っている。つまりそこに行き着くまでは、常に買い控えは起こるというわけである。各カメラメーカーさんは大変だとは思うが、腹を決めていったんは撮像素子も記録系も、Full Hi-Visionに行かなければしょうがないのではないか?

小寺信良氏は映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。最新著作は小寺氏と津田大介氏がさまざまな識者と対談した内容を編集した対話集「CONTENT'S FUTURE ポストYouTube時代のクリエイティビティ」(翔泳社) amazonで購入)。

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