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「KURO」で味わうクレイアニメの“空気遠近法”山本浩司の「アレを観るならぜひコレで!」(2/2 ページ)

» 2007年10月31日 20時26分 公開
[山本浩司,ITmedia]
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photo 「ティム・バートンのコープス ブライド」。BD盤は3980円。(C) 2006 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.

 作品は、様々な抑圧の下で人々が生活していたビクトリア朝時代のヨーロッパが舞台。親同士の思惑で、成り上がりの魚屋の長男ビクターが、没落貴族の娘ビクトリアと結婚することになるのだが、ひょんなことからビクターが死体の花嫁(コープスブライド)に結婚の誓いをしてしまい――というお話で、まずその色彩設計が興味深い。生者の世界は、銀板写真を思わせる色が抜かれたダークで暗鬱なトーン。いっぽう死者の世界は、原色が乱舞するカラフルでイキイキとした画調で描かれる。その色調の対比から現実の階級社会(今なら格差社会?)の息苦しさ、閉塞感を読み取ることは容易だが、まずはこの精妙な色彩設計をきちんと味わい尽くせるテレビやプロジェクターを用意したい。

 生者の世界のダークで暗鬱な雰囲気を描写するには、暗部から明部までホワイトバランスのトラッキングがきちんと取れていなければならないし、原色が乱舞する死者の世界の楽しさを描くには、S/N比と色純度の高さが重要だろう。また、粘土で造形されたパペットを35ミリ・デジタルカメラを用いて毎秒24コマで撮影されたこの作品、ハイビジョンソフトならではの立体感や奥行感を実感するのにまさに恰好の素材でもある。

 そんなわけで、各社の最新テレビやプロジェクターの画質をチェックする際に、ぼくは必ず本作のBDやHD DVDを持参するのだが、先述した立体感や奥行感の再現性は、映し出すディスプレイによって驚くほどの違いがある。で、各社の新製品を見て回り、もっともその魅力を際立たせて見せてくれたのは、パイオニアの最新プラズマテレビ“KURO”「PDP-5010HD」だった。

photo パイオニアの最新プラズマテレビ“KURO”「PDP-5010HD」

 本製品の詳細については御存知の方も多いと思うが、なんといっても本製品の魅力は、暗所で2万:1を実現したコントラスト比の高さにある。黒輝度は、昨年発売され、その高画質で話題となったモニター機「PDP-5000EX」で実現されたO.1カンデラを大きく下回る0.02カンデラ以下。「KURO」というペットネームに恥じない、艶々とした「墨痕鮮やかな黒」が味わえる。

 パイオニアは、2005年に発売された「PDP-506HD」で「高純度クリスタル層」を発見・採用してハイコントラスト・ディスプレイのトップランナーに躍り出たわけだが、今シーズンの「KURO」ではセルの背面にも高純度クリスタル層を配置してプラズマ放電をより安定させ、予備放電(種火)をさらに抑えることで、この驚異的な黒輝度を実現しているのである。この漆黒の表現が「コープスブライド」を立体感豊かに描き出していることは間違いない。近くのものは色が濃く、遠くのものは色が薄く見えるという「空気遠近法」がより強調され、驚くべき立体感・奥行感を伴ってパペットたちが迫ってくるのだ。

 また、「コープスブライド」は、パペットが置かれる背景美術がたいへん素晴らしいのだが、PDP-5010HDはそれをグラデーション豊かに、精妙に描き出す。サブフィールドの組合せで階調をつくりだすプラズマテレビ、昔の製品は明らかに階調数が足りず、人の顔などに“疑似輪郭”が出るケースが多かったが、本製品にはそんな危なっかしさはまったくない。パイオニア独自の「フレックスクリア駆動法」はそもそも階調表現を得意としていたわけだが、今回の「KURO」では、パネルの黒レべルの向上に合わせ、低輝度部の階調をより積極的に表現するべく、20IRE(白を100%とした場合の20%のグレーレベル)以下のステップを約3倍に増やす新駆動法が採用され、より豊かなグラデーションを実感することができる。

 艶のある黒と精妙な階調表現、それにクリアーでヌケのよい色再現。本機PDP-5010HDの卓越した映像表現で見る「コープスブライド」は最高の目の御馳走だ。たとえばチャプター16のビクターと死体の花嫁がピアノを連弾するシーン。手前に花嫁、その奥に座るビクター。この2体のパペットを被写界深度の浅いレンズを用いたカメラで望遠気味に捉え、フォーカス送りをしながら2人の関係を浮き彫りにしていく。このシーンの3次元的立体感描写は、パイオニア「KURO」の独壇場といっていい。

 ディスプレイという2次平面上に描き出された動くパペットたちが、浮き上がって見えたり、奥のほうに引っ込んで見えたりする高画質テレビによって引き起こされる映像のマジック。ハイビジョンソフトならではの魅力を痛感するのはそんな出会いの瞬間である。

執筆者プロフィール:山本浩司(やまもと こうじ)

1958年生まれ。AV専門誌「HiVi」「ホームシアター」(ともにステレオサウンド刊)の編集長を務め、昨年秋フリーとして独立。マンションの一室をリフォームしたシアタールームで映画を観たり音楽を聴いたりの毎日。つい最近20数年ぶりにレコードプレーヤーを新調、LPとBD ROM、HD DVDばかり買ってるそうだ。


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