先週はテレビ画面の表面処理について、実は画質との関連性が大きく、いくつかのデメリットはあるものの、グレア(光沢)の方が画面はきれいに見えると紹介した。
一言で画質といっても、さまざまな切り口がある。「これは画質が悪い」といっても、果たして色の相関関係が崩れて不自然な表現になっているのか、それとも映像ソースのMPEG圧縮で歪んでいるのか、それとも画像処理が不適切で映像の質感を損ねているのか。画質が悪いというだけでは、なかなか会話は成り立たない。
画面の表面処理についても同じで、理屈の上で解像感や色純度が落ちるなどといったところで、アンチグレア処理の方が好きだという個人の好みにはかなわない。何が重要かではなく、自分が見た時の好みに関して、消費者はもっと自分自身の目に自信を持つ方がいいだろう。
各社の絵作りやパネルの善し悪しなどは、残念ながら明るい蛍光灯で照らされた店頭では比較できないものの、表面処理に関しては比較的分かりやすい。今週末はAV機器も今年最後の大売り出しとなるだろう。読者の中にも店頭で最後の確認をと思っている人もいるはずだ。
さて、このような書き出しにしたのは、アンチグレア処理にも“程度の違い”があることを、自分自身の目で確認してほしいからだ。先週のコラムの最後に、実はハーフグレアという表面処理を施した製品があると書いた。ソニーの「BRAVIA」やシャープ「AQUOS」の一部機種が採用している表面処理である。
ハーフグレアというのは正式な名称というよりも、比較する上で便宜上、使われている言葉だ。一般的なアンチグレアほど光を拡散させないが、しかし光沢ではないというもの。つまりアンチグレアの一種であり、その中でも比較的滑らかな表面になっているもののことをいう。ハーフグレアと呼べる製品の中でも、滑らかさの度合いはまちまちなので、「これはアンチグレア、これはハーフグレア」と決めつけるのではなく、どんな感じの表面なのかな? と興味を持って自分の目で見るといい。
ハーフグレアの画質は、まさにグレアとアンチグレアの中間。画質だけで言えばグレアの方が有利だが、中には自分の姿が映り込んだり、テレビの対面に光源があって見辛い場合にはアンチグレアの方が良いと思う人も少なくないと思う。
なんとかバランスできないものか。ハーフグレアを使うのは、その中間バランスを探して、より幅広いユーザーにとって良いテレビであるべきだとの開発側のこだわりがあるからだ。
ただし、グレアの方が良いと思っているのは、製品を評価するわれわれのような立場の人間だけではない。製品を開発している技術者自身も、実際には「グレアの方が画質が良いことは分かっている」と口を揃える。ではなぜ、見た目の美しさで不利があるアンチグレアを採用するのか?
一番大きな理由は、いきなりツルツルに光るグレア液晶に切り替えると、明るく広い店頭で顧客が「こんな映り込みじゃ見にくい」と思われる可能性が高いからだという。グレア処理の液晶テレビがほとんどない中では、製品を選ぶ側もアンチグレア処理のテレビに慣れてしまっている。いくら画質が良いハズといっても、普段慣れている質感と全く異なるようだと、悪い部分ばかりが強調されて「グレアはダメ」のレッテルを貼られかねない。だからメーカーはグレアへと切り替えるのをためらうわけだ。
実際、ガラスパネルを前面に配置するプラズマテレビの場合は、普通に作ればグレアになる。ところが、ペンライトなどで映り込みを作り「ほら、見辛いでしょ?」というネガティブキャンペーンを米国で徹底的に展開されてしまい、とうとうパナソニックはハーフグレア処理を施したモデルを北米でラインアップせざるを得なくなってしまった。事情は日本でも同じで、あからさまなネガティブキャンペーンはないものの、映り込みの指摘が多いためハーフグレアオンリーだ。
そんな状況下にあって、なかなかグレア採用に踏み切れず、まずは市場での認知の高まりを待ってから次のステップへと考えているメーカーが多い。ハーフグレアは、いずれやってくるグレア時代へのはじめの一歩といえるだろう。
日本では三菱電機が先行して始めたと先週書いたが、実は北米ではそれよりも以前にサムスンがグレアのテレビを発売している。現時点で選ぶならハーフグレアも悪くない選択肢だが、いずれグレアの長所が理解されるようになれば、グレアが主流になっていくのではないか? と予想している。
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