筆者は少し前まで、地上デジタル放送の番組をほとんど見ていなかった。あまり見たい番組がなかったからなのだが、今クールからは選り好みをせず、可能な限り時間を割いて各局の番組を見るようにしている。
そこで気付いたのが、放送画質のあまりの悪さだ。以前から放送ビットレートの低さから来るブロック歪みやモスキートノイズの多さは気になっていたが、それ以前に輝度レンジを広く使っていない撮影があまりに多い。
たとえばスタジオ収録のバラエティ番組を見ると、確かに高輝度の白側のレベルはきちんと合っている。これは基本なので当たり前だろうが、黒側はレベルが高すぎて“黒浮き”している場合が大半だ。立体感がなく、ノッペリとして全体に白っぽく見える。白レベルは合わせても、黒レベルは「潰れなければOK」としてきちんと合わせていないのだろう。
放送全体がそうなってしまっているのか? というと、実はCMになるときちんと輝度レンジが広がる。一番よくわかるのが、テロップが重ね合わせられているシーンだ。テロップはコンピュータグラフィックスの合成だから、黒レベルがきちんと合うためにメリハリがあり、背景の実写部分と画質が大きく違う。
ではドラマはどうか? というと、さすがにバラエティ番組ほど明白ではないものの、番組ごとに黒レベルのズレの大きさが目立つものがある。またシーンごとにちゃんと調整されているシーン、されていないシーンも混ざっている。
もちろん、バラエティ、ドラマに限らず、きちんと高画質で撮影されているものもある。これらは、おそらく撮影スタッフが「こんな映像ではダメだ」と調整をきちんと出しているのだろう。ちょっとした手間で調整は済むハズなのに、きちんと撮影されていない例が目立つのは、テレビ局側が視聴者の環境が変化していることをきちんとキャッチアップできていないからではないだろうか。
確かにテレビがデジタル化された当初は、液晶もプラズマもコントラストが低く黒浮きしていたため、黒階調を圧縮して(つまり、つぶし気味に)映像を出していたものが少なからずあった。しかしパネルの性能が向上し、今度はきちんと暗部階調を出せるようになると、黒階調を圧縮することによるマイナスが目立つようになる。
このため、最新の高コントラストなテレビは、むしろ暗部の階調を広く見せようと絵作りをし始めている。まずは映画向けの画像モードからだが、一般的な標準モードに関しても、映像に含まれている情報をすべて出そうという方向に行くハズだ。そうでなければ、いくらテレビが高画質化しても良い映像を良い状態で鑑賞できない。
こうした視聴者の環境の変化に対して、もう少しきちんとした映像を作ろうという意識を、デジタルハイビジョン全盛を迎えるであろうこれからの数年、テレビ局にも持ってほしい。
とはいえ、市販パッケージソフトを除くと、われわれは放送されているコンテンツを見るしかない受け身の立場だ。放送が変わらないのであれば、なんとかそれに対する対応策を考える必要があるだろう。実は、各メーカーの製品には上記のような黒が最初から浮いてしまっているコンテンツでも、それなりに立体感を出すための機能が備わっている。次週はそうした機能について触れていくことにしよう。
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