LUXMAN(ラックスマン)というブランド。本誌の読者層からすると、もしかするとどこかで聞いたことがある名前? という程度の方もいるかもしれない。あるいは筆者と同じ40代なら、10代の頃に全盛を迎えた自作オーディオブームに憧れの存在でもあったラックスキットの親会社だったという方がピンと来るという人もいるだろう。
しかし1925年創業のラックスを前身とし、そのオーディオ製品のブランドであったラックスマンを引き継いだ現在のラックスマンは、いまだ日本のオーディオブランドとして、独自の地位を築いている。量販向け製品ではなく、あくまでも音の質感にアイデンティティを求めてきたが故に一般のブランド認知は比較的低いかもしれないが、一方でオーディオに興味を持つ人たちにとっては、今も昔も変わらず、特別な存在だ。
一時のラックスマンは音場型の音という印象が強く、ふわっとした独特のソフトな空気感に包まれる心地よさはあったものの、カッチリとした音像や音離れの良さを求める向きには少々音場が濃厚になりすぎる傾向が強かった。しかし、数年前から音の傾向に変化が訪れ、現在は奥行き感や濃厚な中域の質感を残しつつも、音のまとわりつきが少ない、しかしスッキリとしすぎて雰囲気を損ねない、程よい音場空間を描くようになった。
今回、ここで紹介する「Neo Classico」(ネオ・クラシコ)シリーズも、真空管アンプを基礎にしたコンパクトサイズのオーディオという、ある種、懐古主義的な製品でありながら、音の方は思いの外、現代的だ。ソフトで聞きやすい、色彩感豊かで心地よい空間を演出しつつも、決して甘い描写にとどまらない。
A4サイズに底面積をまとめた真空管プリメインアンプの「SQ-N100」、CDプレーヤーの「D-N100」は、いずれもミニコンポと同等のサイズながら、その作りはなかなか本格的。しかも初の自社ブランドスピーカーではないか? と思われる「S-N100」もラインアップ。
この3点セットを評価するにあたって、まずはアンプとプレーヤーを普段から使用しているリンの「Akurate 242」に接続して評価を始めた。やや低めの能率の5ウェイスピーカーは鳴りにくく、トランジスタアンプの場合、小出力アンプでは厳しいが、出力管にEL84を用いたプッシュプル構成の「SQ-N100」は、それでも十分な音量で駆動してくれる。
まずはこの組み合わせで、Neo Classicoの得意分野をヴォーカルと見定め、チェスキーレコードがボーカルものを集めたサンプラーSACDとして発売している「World's Greatest Audiophile Vocal Recordings」でチェックを始めた。
EL84のプッシュプルという構成を見て、中高域から高域にかけての爽やかで伸びやかさ、膨張感を抑えたキレのある中低域を予想していたが、やや中高域に歪みっぽさ、音場の閉塞感を感じた。
そこで試しに真空管を保護するネットカバーを外してみる。すると歪みっぽさが緩和され、開放感が出てくる。アンプ自身の回路はシンプルだが、真空管には通常、出力用トランスが必要になる。A4サイズの底面積では使えるトランスの大きさも限られているため、低能率のスピーカーを鳴らす際には出力トランスが音質低下の主因にならないかと心配したが杞憂だったようだ。
ボーイソプラノの少年たちを集めて録音したリベラの「ルミノーサ」にディスクを変え、2曲目の「Ave Maria」をプレイ。教会の中で歌うコーラスに見立てた録音は、一歩間違うと冷たい残響ばかりが耳に付き、人肌の暖かさを忘れるような、クールなばかりの音調になりがちだが、適度な温度感を伴いつつ透明感もある音の感触は、小型コンポーネントであることを忘れさせる。
贅沢を言えば、音像にもう少しシャープさがほしい。また、音場が奥に広がらず、奥行き感にやや乏しさを感じる。
そこでアンプとプレーヤーを置いているオーディオボードを木製から黒御影石に変更。鳴き止めの上に黒御影石を置き、その上に両製品を置くと、程よい温度感に大きな影響を与えることなくさらに高域へのヌケが良くなってくる。これは振動に対してなかなか敏感な製品だ。
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