日本人としては2004年、同じく松下電器AVC社・社長(当時)の大坪文雄氏が基調講演を行って以来、4年ぶりに登壇した松下電器AVC社・社長の坂本俊弘氏の基調講演では、既報の通り薄型と超大型、ふたつのプラズマディスプレイを目玉に据えて行われた。(→「象も原寸大? パナソニックが世界最大150型PDPを披露」)
しかし、こうした来場者を驚かす新技術の紹介が、基調講演の軸だったわけではない。坂本氏の基調講演で示されたのは、同社の最新技術を用いて実現しようとしている、近未来のデジタル家電が向かうべきビジョン、そしてコンセプトである。
坂本氏が基調講演全体を通した軸に据えたのは「家族団らん」への回帰だ。日本語で「家族団らん」と書いてしまうと、どこか懐古趣味的な印象を受けてしまうが、むしろ行き過ぎた個人主義に向かっていたデジタル家電を、もう一度、ライフスタイル全体を見据えてリセットしようという意図が見える。
デジタル家電は低コスト化、小型・軽量化などの技術面での進歩に加え、普及促進(販売ボリュームの最大化)を狙うといった販売戦略面での意図もあって、パーソナル化が進んできた。一家に1台ではなく、各部屋に1台、あるいは家族一人に1台、さらには用途ごとに1台といった具合だ。
しかしパーソナル化、用途ごとの最適化が進むと、各製品は特定の目的に先鋭化してくる。その結果、分野ごと、メーカーごと、製品ラインごとに、操作性、機能などがバラバラになり、各機器の最低限の連携はできても、深く結びついた使い方はやりにくくなってくる。
坂本氏の紹介した技術は、こうした問題に対するひとつの方向性を示したものだ。それぞれは技術的、コンセプト的に新しいものではないかもしれない。たとえばWireless HDはこれから普及を見込む新しい技術だが、その基本部分はUWBであり、その上に映像伝送のアプリケーションを載せたものに過ぎない。YouTubeやPicasa Webのサービスをテレビ、デジタルカメラに組み込む手法も然りだ。
しかし、こうした今、実現できる技術を具体的にどのように実装し、ユーザーの手元に届けるのか。そのビジョンを描いて見せたことで、近い将来のリビングルームを身近に描いて見せたところに、あらゆる家電製品を幅広く提供している松下電器の懐の広さを感じる。
たとえば壁一面を超高画素の巨大ディスプレイとして使い、部分的に必要な情報を表示させながら、近未来リビングを演出した基調講演の終盤。このシーンは単なるコンセプトを示すショウにしか見えないが、実は実際に会議向けソリューションとして同社が開発しているアプリケーションを、家庭向けにアレンジしたものだ。
そこで重要になるのは機能ではなく、ユーザーの意図に応じて自在にコンテンツを操ること。そのための実装技術の優劣が、製品の使いやすさ、機能性を決定づける。今すぐに提供される機能を字面だけで見ると、テレビからYouTubeやPicasa Webの写真を楽しんだり、カメラとPicasa Webを同期するだけかもしれない。
しかし、その先に見えてくるのは「この前の旅行で撮影した写真とビデオを見ようよ」とディスプレイの前に集まり、会話を交わしながらデジタルメディアを楽しむ姿だと坂本氏は言いたいのだろう。
そのためにどんなシカケを用意していくのか。要素技術だけで「凄いぞ」と見せるのではなく、ライフスタイルを変えるほどの新しい提案と、誰もがそれに乗っていける実装技術の素晴らしさ。その両方を手に入れることができるかどうかが、今後、家電メーカーが本気で考えていかなければならないテーマとなってくるはずだ。
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