ワーナーの転向が引き金となり、次世代DVDの主導権を巡る争いに破れたHD DVD。その敗因はどこにあったのだろうか。
画質・音質の差とは考えにくい。両規格とも、ビデオコーデックにはH.264/AVCとMPEG-2、オーディオコーデックにはDolby True-HDなどのサラウンドシステムをサポートするなど、共通項は多い。同等といっても差し支えないだろう。
メディアの製造コストについては、むしろHD DVDが有利だった。厚さ0.6ミリの保護層を2枚貼り合わせた構造はDVDと共通であり、DVDメディア生産ラインの転用が容易なことから、売価を低く抑えることが可能というものだ。
決め手はやはり「キャパシティの差」だろう。厚さ1.2ミリ以内という光学ディスクとしての制限を考慮すると、0.6ミリ×2層が限界(片面からHD DVDとDVDを再生できる3層ツインフォーマットディスクは製品化されなかった)であり、1層あたり15Gバイトの計30Gバイトが容量の上限だった。
一方、Blu-ray Discの保護層は(0.025ミリの中間層を含めて)0.1ミリ。しかも1層あたりの容量も25GバイトとHD DVDを上回っているほか、理論的には最大12層が可能とされ、実際8層/200Gバイトの大容量メディアも開発に成功している(関連記事)。VHS vs Betaしかり、VHS-C vs 8ミリしかり、過去を振り返れば必ず大容量メディアが勝利を収めていたことも確か。その意味では、戦う前から勝負はあった、と言えないこともないだろう(※初出時、不正確な記述がありました。お詫びして訂正いたします)。
これからのHD DVDだが、東芝に続きオンキヨーも撤退を発表するなど、メーカーや映画配給会社の戦線離脱が相次いでいる。これから新機種の登場は見込めず、映画などビデオタイトルの発売も期待できない。一部の小売り店は、すでにHD DVDプレーヤー/レコーダーの販売を中止している(ヨドバシ、HD DVD機の販売終了)。
ハードを販売したメーカーには、修理などのサポートという義務が残される。東芝は、コールセンターの強化や部品の8年間の保存、記録用ディスクのネット販売の検討を挙げているが、VHS vs Betaで敗れたソニーがBeta対応機の製造を続けた先例もある。敗軍の将は兵を語らずというが、ユーザー保護については大いに語ってほしいものだ。
執筆者プロフィール:海上忍(うなかみ しのぶ)
ITコラムニスト。現役のNEXTSTEP 3.3Jユーザにして大のデジタルガジェット好き。近著には「デジタル家電のしくみとポイント 2」、「改訂版 Mac OS X ターミナルコマンド ポケットリファレンス」(いずれも技術評論社刊)など。
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