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れこめんどDVD:「AFRO SAMURAI 劇場版」(Blu-ray Disc)DVDレビュー(2/2 ページ)

» 2008年02月22日 14時44分 公開
[飯塚克味,ITmedia]
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ハードな描写に、芸術性の高い映像

 Blu-ray Discに収録されているのは劇場版だが、これでも充分ハードな表現満載となっている。アフロの父が殺される場面では生首が飛ぶし、決闘シーンでは時代劇の名匠・三隅研次の映画も真っ青の血のりと切り株の嵐となっている。WOWOWで放送された剣劇アニメ「シグルイ」も凄まじい描写の連続だったが、本作もさすがR-15指定を受けただけのことはあると言えよう。またテレビ版のように物語が細切れになっていないので、全編を見た後の充足感はこちらの方が勝っていることも付け加えておきたい。

 さらに本作のユニークな点として、ほとんどモノクロに近い色彩表現を忘れることはできない。冒頭の夕焼けの決闘が終わってから、全編デイシーンもナイトシーンもほとんどが限られた色でのみ映像が作られている。カラフルな基調の最近のアニメとは一線を画した姿勢も本作の芸術性を高めているところだ。

 昨今はCGによる3Dアニメが普通だが、本作品はあえてセルアニメで製作された。このことによって原作者である岡崎能士のタッチを作画スタッフが最大限に引き出すことに成功しているのだから、今後も作品によってはセルアニメでの製作が行われるのではないだろうか。

 そして本作の無国籍感を増しているのが全編英語による台詞だ。やはりBlu-ray Disc版が出たばかりの邦画「スキヤキウエスタン ジャンゴ」では日本人俳優による英語台詞が話題を呼んだが、やはりネイティブな俳優たちの台詞には太刀打ちできない。アニメはこういう垣根もやすやすと乗り越えてしまうところが本当に凄い。

特典で実写化への可能性も示唆

 特典は本編の音声解説のほか、「メイキング・オブ・アフロサムライ」(11分)、「ミュージック・オブ・アフロサムライ」(4分)、「サミュエル・L・ジャクソン インタビュー」(4分)、TVスポット集を収録。「メイキング」では武士道について熱く語るサミュエル・L・ジャクソンの姿がユニーク。「ミュージック」では音楽を担当したThe RZAが和風テイストを出すため太鼓や打楽器を使用したことを明かしてくれる。サミュエルのインタビューでは彼が本作の実写化への意欲を示しており、もし実現すれば大変なことになると思わせてくれる。

 映像の圧縮方式はMPEG-4/AVC。画面サイズは16:9のビスタサイズ。音声はオリジナルの英語音声をドルビーTrueHDとDTS-HD Master Audioで収録している。

ディスクの視聴は、プレイステーション3からYAMAHAのAVアンプ「DSP-AX4600」をHDMIで経由し、映像は42インチのプラズマと液晶プロジェクターによる100インチのスクリーン再生で行った。読者には誠に申し訳ないのだが、筆者のシステムは現状まだ次世代音声フォーマットに対応していない。よってドルビーTrueHDはリニアPCMに変換した5.1chで、DTS-HD Master Audioはコア部のみでの視聴だったことをご了承願いたい。

映像も音声も極めて良好

 映像は総じて良好。WOWOWでの放送と比較した訳ではないが、充分な解像度でアニメの世界を再現している。劇場ではフィルム変換したものが上映されたはずだが、ホームシアターの方がキレのいい映像を体感できるはずだ。特に先述した色数の問題がハイビジョンで見ることによってより明瞭に差別化でき、少ない色数ながらその微妙な諧調の味わいをしっかり肌で感じ取ることができるのはうれしい。

 音声はDTSの方が若干レベルが高くなっているが、どちらも非常にクオリティは高い。特に静けさの表現には驚かされた。緊張感の走る場面、一瞬の無音状態はケーブルが外れたのでは?と思ってしまうほど静寂に満ちて、ロスレスの凄さを感じることができる。優秀なスピーカーであればその効果はより実感できるだろう。

「スター・ウォーズ エピソード2〜」に通じるシーンも

 CH-1でアフロの父とジャスティスが巨大な石塔の上で戦う場面。背景の夕焼けやボロボロの鳥居が実に美しい。刀と拳銃の戦いはまるで「ルパン三世」の石川五ェ門と次元大介を思い起こさせる。撃たれた弾丸をバリアを張るかのように早い剣術で切り落としていく様は痛快そのもの。距離を縮めた両者に一瞬閃光が走った後、アフロの父の首が飛んでくる。斬られた首はまだ口元が動いて、アニメとはいえかなり衝撃的な表現を伴っている。

 そういえばサミュエル・L・ジャクソンがジェダイに扮した「スター・ウォーズ エピソード2/クローンの攻撃」では、サミュエルがボバ・フェットの父親の首を切り落とす場面があった。少年だったボバ・フェットが戦いの後、父の首を拾う場面はまさに本作のアフロそのものだった。メインタイトルの後、大人になったアフロが敵と戦う場面になるが、ここから色味はグンと落ち、墨絵を思わせるモノトーンの映像になっていく。斬られて流れる血だけが妙に赤く、作り手の狙いが強く感じられる。大量の敵を斬殺し、刀をさやに収めるアフロ。ズシンと響く低音から人を切った刀の重みが伝わってくる。

 CH-2は酒場から始まる。昼なのにやたらと暗い酒場。ハリウッド製の西部劇と言うよりマカロニウエスタンの雰囲気が漂う。酒の色だけがパステル調になっているのがなかなか面白い。

 CH-3では崖沿いの道での決闘。改造したボウガンを持つ男との一騎打ち。背景をフォーカスアウトさせ、崖の高さと敵の距離感を効果的に見せている。こうした映像表現はBlu-ray Discの独壇場だ。ボウガンの男を破ったアフロだったが、“二番”のハチマキを狙う無無坊主(ノンノンボウズ)らの襲撃に遭い、崖下に転落。瀕死のアフロはお菊という女性に救われ九死に一生を得る。ここでアフロは幼少期を回想する。父親の腐った生首を運びつつ旅するアフロは暴漢に襲われ“二番”のハチマキを奪われる。孤児を引き取って面倒を見ていた師範に救われ、人生を見つめ直す機会を与えられるが、やはり父のことを記憶から消し去ることはできない……。

 CH-5でお互いの距離感が縮まったアフロとお菊は結ばれることになる。濃厚なラブシーンは地上波のアニメではあり得ないもの。舌が絡み合い、汗に濡れた背中などかなりハードな表現だ。2人が見つめる花火の場面はサラウンド的にはいくらでも広がりを持たせる事ができるものだが、必要以上に派手に作られていないのがかえって自然に感じられた。ここであまりやりすぎてしまうと、その後に続くアクションシーンの音が際立たなくなってしまう。ここから後は戦いの連続。無無坊主の用意したアフロドロイドやクマのかぶりものをした謎の刺客などなどユニークかつ強烈なキャラクターが続々と出現し、“一番”への道を塞ごうとする。アフロは果たして父親の復讐を遂げることができるのか?そして、その先にあるものとは一体何なのか?

暴力からは何も生まれない!奥深いアニメ

 先ほどから血とエロが満載のように書いているので、もしかしたらエログロ万歳映画かと思われがちだが、決してそれだけの作品ではない。むしろ見せかけの強さや暴力の行き着く先には何もないことをしっかり訴えかける内容になっている。このことは今年のアカデミー賞で話題になっているコーエン兄弟の「ノーカントリー」と同質と言える素晴らしさだ。昨今のアニメは技術的にはもちろん、テーマ的にも優れたものが多いが、この「AFRO SAMURAI」もそうした流れの作品として長く語り継がれるはずだ。本作のファンに何度も見てもらいたいのは当たり前だが、未見の人にもぜひ勧めて、日本が世界に誇るアニメの素晴らしさをもっと広めてもらいたいと切に願う。

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