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HD DVD、3つの敗因麻倉怜士のデジタル閻魔帳(2/3 ページ)

» 2008年02月25日 08時30分 公開
[渡邊宏,ITmedia]

敗因(2)――BDに対する「実現性が乏しい」とする決めつけ

麻倉氏: HD DVDの関係者に話を聞いていると、敵のBDに対し、生産を含めて「“難しく実現性がない”技術である」という確固たる信念を持っているように感じました。確かにBDはまったくの新しい技術ですし、生産も困難でした。しかし最初はそうだったかもしれませんが、技術というものは次第に洗練され、進歩していくものです。液晶も開発した米RCAは事業に成功しませんでしたが、シャープは成功しました。プラズマも最初はどこも成功しませんでしたが、90年代に入り富士通が成功にこぎ着けました。当の東芝もソニーから「難しく、実現性は乏しい」と批判された「0.6ミリディスクの貼り合わせ」を苦労を重ねながら実用化することに成功し、今日のDVDとなりました。しかも生産を続け、コストも劇的に下がりました。それと同じことが、東芝が批判したBDでも起きているのですね。BD-ROMがスタートして以来、昨年12月末までに映画用とゲーム用含め、1億1千万枚のBD-ROMディスクが量産され、そのうち3千万枚が2層でした(ソニー実績)。ちゃんと出来るのです。

 東芝がBDに対して冷淡だったのは、非常に印象的です。BDに対する技術不信があったので東芝はDVDの延長としてHD DVDを作ろうとしましたし、2005年に行われた統一交渉の際にも、BDの0.1ミリ保護層構造の生産性を東芝側が信用しなかったのが最大の決裂点でした。

photo 東芝 執行役上席常務 デジタルメディアネットワーク社 社長 藤井美英氏

 そうした意味では、HD DVD陣営にはBDに対してある種の決めつけがあったように思えます。2006年3月に東芝がHD DVDプレーヤー「HD-XA1」を発表した際、藤井さん(東芝デジタルメディアネットワーク社 藤井美英社長)が「戦艦大和」発言(※)をしましたが、まさに決めつけの典型ですね。当時、BDの多層化は難しいと言われていましたが、現在は多くのBDディスクが多層(2層)ディスクになっています。ハードコートにしてもDVD-RWでは当たり前のように施されていますし、「そんなものはいらない」と言った1080p対応のHD DVDプレーヤーも登場しましたよね。

 ライバル技術に対する冷静なジャッジが行えず、技術革新を信用できず、既存技術の延長に自分たちの世界をつくってしまったことが第2の敗因でしょう。「BDはできっこない」を前提にすべてを考えてしまった過ちです。

※ HD-XA1の発表時、BD側の「0.1ミリ保護層」「ハードコート」「1080p」「BD-JAVA」「BD+」の5点について藤井氏が反論し、「BDはいわば(大砲巨艦主義に陥った)戦艦大和だ」と批判した。(関連記事:東芝 藤井氏、「BD 5つのメリット」に反論)

敗因(3)――極端な低価格戦術

麻倉氏: 東芝は2007年秋、アメリカ市場でHD DVDプレーヤー「HD-A2」を99ドル(98.87ドル)という超低価格で販売しましたが、これが最終的な破たんを招きました。

 同社は米市場で2006年3月にHD DVDプレーヤーの投入を開始しましたが、その際には低価格機の「HD-A1」でも499ドルでした。プレーヤーの市場投入タイミングでいえば、HD DVDの方がBDよりも先行していましたので、そのすきを付いてシェアをどれだけ取れるかとも考えたのでしょう。BD陣営のメーカーはコストを考えた値付けを行っていましたので、販売価格で言えば倍ほどの違いがありました。

 HD DVDは「面」としてのシェアを考えた施策が優先した結果、価格でしか市場を刺激できない状況を自らが作り出してしまったとも言えます。対してBD陣営は画質や操作性、多機能性といったマニアを刺激する機種を作り続けました。

 確かに99ドルプレーヤーは売れました。しかし、プレーヤーが売れても、2007年1月から12月までいつの時点でもBDとHD DVDのソフトの売れ行きは2:1の比率で変わることはありませんでした。ハードの低価格戦略がHD DVDソフトに貢献していなかったのです。購入者は高性能DVDプレーヤーとしてしか利用せず、99ドルでしかプレーヤーを買わないユーザーが1枚35ドルのHD DVDソフトなど買うはずもありません。

 超低価格戦術は「ハードが売れても、HD DVDソフトは売れない」という状況をも作り出してしまいました。ワーナーはこの状況を見て、HD DVDからの離脱を決めました

 99ドルという一般的なDVDプレーヤーよりも安い製品を出すことで衝動買いは喚起されますが、市場全体をみれば次世代DVD製品はまだまだアーリーアダプターを取り込んでいる段階です。対してBD陣営はアーリーアダプター、つまりはAVマニアの心をくすぐるような製品構成を構築していました。東芝は中国メーカーに低価格製品で参入してくれることを期待していたようですが、99ドルという超のつく低価格に中国メーカーも尻込みしてしまいました。

 短時間で勝負を付けるという無理のある販売戦略、これを3つめの敗因として挙げられるでしょう。

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