昨年秋、リンの「LP-12SE」を購入した。1973年から発売されている定評のあるレコードプレーヤーを高音質パーツで完全武装させた、高価なスペシャル・エディション・モデル。ぼくにとって二十数年ぶりのアナログプレーヤーである。
深夜帰宅が続いていた会社員時代と違い、フリーになってリスニングルームで過ごせる時間が格段に増えたこと、50歳を目前にして「むかし自分が好きだった音楽」をもう一度じっくり聴き直してみたいと思い始めたこと、それからこの数年、過去の名作が重量盤LPで復刻されることが多くなったこと、そんな諸々がオレ的アナログ再挑戦の理由。
そんなわけで、最近「むかし自分が好きだった音楽」を探すレコ屋巡りが楽しくて仕方がない。街歩きのたびにレコード屋のエサ箱を覗き始めた中学生の頃に戻った気分がする(エサ箱:レコード屋さんの棚やケースのこと。コレクターは中古レコードを探すことを“エサ箱をつつく”と表現するのです)。
そう、1970年代初頭の中坊時代に熱心に音楽を聴き始めたぼくにとって、「むかし自分が好きだった音楽」というのは、何といっても1960年代後半から英米を中心に多くの才能あるミュージシャンがすごいレコードを連発していたニューロックの数々。今改めてあの頃夢中になって聴いたロックのレコードを聴き直すと、おれはこんな音楽にさまざまな影響を受けて、自分の世界観やモノの感じ方を形成していったのだなと思う。
人生の折返点を過ぎてそんな気分に浸っていたときに、Blu-ray Discで映画「あの頃ペニー・レインと」(2000年。原題:Almost Famous)に再会した。
舞台は1973年。主役は、姉の影響を受けて熱烈なロック・ファンになったカリフォルニアのサンディエゴに住む15歳の男の子ウィリアム。地元紙に書いたコンサート評が認められた彼は、ローリングストーン誌に依頼され、ブレイク寸前の新進ロック・バンド「クリアウォーター」のコンサート・ツアーに帯同して、彼らのインタビュー記事を書くことになる。そのツアーには、人気バンドには付き物のグルーピーの女の子たちがいて、ウィリアムはバンド・メンバーのラッセルと付き合うペニー・レインに淡い恋心を抱くようになって……という物語。
家を出る姉がウィリアムに残していくレコードが懐かしい。サイモン&ガーファンクルの楽曲に乗って、ストーンズ、ツェッペリン、ニール・ヤング、ジェームス・テイラー、ジョニ・ミッチェル、ビーチ・ボーイズ、ボブ・ディランらの代表作のジャケットが次々に映しだされる。これらは、今まさにぼくが買い直しているLPたちだ。
解説を読むと、この作品は監督のキャメロン・クロウの実体験を映画化したものだという。ぼくはキャメロンと同じく、1973年に「姉の影響を受けて熱烈なロック・ファンになった15歳の男の子」だったのだが、なにせ日本の地方都市に住む詰め襟を着た中学生。この作品に描かれているようなロック・ミュージシャンの華麗で過酷で楽しいツアー生活を覗き見したことは、もちろんない。しかし、この映画で描かれる、ロックが巨大化し、産業化し始める1973年の空気感は肌で分かるし、あの頃のロックがティーンネージャーにとって、どれだけかけがえのないものだったかも当事者としてよく分かる。
セックスやドラッグの描写がサッパリしているせいか、淡い夢物語のような印象を持たせる作品で、クリアウォーター世代の先輩たちにはちょっと食い足りないかもしれないが、当時15歳だった少年の目に映った1973年のアメリカの風景を描いた作品として観れば納得できる。
移動のバスの中で、みんな揃ってエルトン・ジョンの「Tiny Dancer」を声を張り上げて歌うシーンの叙情やペニー・レインを演じるケイト・ハドソン(ゴールディ・ホーンの愛娘!)のチャーミングな笑顔で、ぼくにとって忘れられない作品になった。
ロスレス・コーデックのドルビーTrue HD 5.1chサラウンドサウンド(日本語吹き替えも同仕様)もたいへん素晴らしく、クリアウォーターのライブ・シーンの迫力などかなりのもの。ビスタサイズのハイビジョン画質もふわりとした優しげな風情を漂わせて、夢のような時間を過ごさせてくれる。
自分にとってとても大切なこの映画を観るなら、画質・音質をともに磨き上げた信頼感のあるBDプレーヤーで再生したい。今なら絶対デノンの「DVD-3800BD」である。
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