ITmedia NEWS >
ニュース
» 2008年05月25日 06時06分 公開

見えてきた“高度BSデジタル放送”の姿 (2/2)

[芹澤隆徳,ITmedia]
前のページへ 1|2       

 現行のBSデジタル放送(ISDB-S)は、伝送路の符号化方式として8PSKと呼ばれる変調方式を用い、衛星の中継器あたり52.17Mbpsの伝送容量を持つ。これはフルハイビジョンのストリームを2チャンネル流せる容量だが、高度BSデジタル放送ではさらに効率の高い符号化方式をいくつも検討している。

photo 進化した8PKSは現行ハイビジョン放送を4番組まで同時に伝送できる

 まず、同じ8PSKながら、NHKが考案したLDPC(Low Density Parity Check:低密度パリティチェック)という誤り訂正符号によって伝送効率を向上させたもの。ロールオフ率を0.1とすることにより、現行BSデジタル放送と同等のサービス時間率を維持しつつ、伝送容量を約70Mbpsにまで向上できるという。「周波数利用効率は、従来の1.84から2.21まで改善する」(田中氏)。

 もちろん70Mbpsでは、H.264で圧縮してもスーパーハイビジョンは伝送できないため、2つのチャンネルを束ねて利用する“バルク伝送”がオプションとして用意されている。しかし、わざわざ2チャンネルを使って1つの番組を放送するのでは、電波の利用効率という点で疑問符が付けられる可能性が高い。

 このほかにも、伝送効率は悪いがノイズに強いBPSKやQPSK、より伝送効率の良い16APSK、32APSKといった変調方式も検討されている。APSK(振幅位相変調方式)は8PSKの振幅を段階的に切り替えて変調するようなイメージで、パイロット信号を導入して受信性能の劣化を抑えられるメリットもある。

photo 8PSKと32APSKのコンスタレーション。データ伝送時の密度が違う

 伝送容量は16APSKの場合で約93Mbps、32APSKでは126Mbpsとなり、32APSKなら1つの中継器でスーパーハイビジョンも伝送可能。ただし、16APSK/32APSKではアンテナが大型になってしまうのが難点だという。現在のBSデジタル放送に使われているパラボラアンテナは45センチ径だが、16APSKで想定されているアンテナ径は60センチ。32APSKでは120センチになってしまうからだ。

 情報通信審議会では、高度BSデジタル放送の基本方針として“現行BSデジタル放送の技術的条件を踏まえる”ことを挙げており、これには受信アンテナなど視聴者側の負担を避ける意味合いもある。したがって、本放送では前述の8PSK+LDPCによる運用が中心になると予想される。伝送容量の拡大や圧縮効率の高いH.264の採用はむしろ、“1つの中継器で伝送可能なHDTV番組数を増やす”ための手段と位置づけられている。ただ、アナログBS時代にMUSEのハイビジョンチャンネルが後から追加された例などを考えると、バルク伝送や32APSKによるスーパーハイビジョン放送もないとは言い切れないだろう。

データ放送の高度化と蓄積型サービスと

 スーパーハイビジョンや32APSKといった技術は、テレビとしての基本的な部分を高度化するものだ。言ってしまえば、放送サービスとしての正常進化であり、機能として目新しい部分はない。一方で、高度BSデジタル放送の“先進性”を担うのが、高速ダウンロードによる蓄積型サービスだ。

 蓄積型サービスは、チューナーに内蔵したHDDなどのストレージに対してコンテンツを自動的にダウンロード(ため込み)。視聴者は好きな時間に楽しめるというもの。「ダウンロードには2つの種類がある。利用者のリクエストによってダウンロードが始まる通信タイプと、放送波で多くの視聴世帯に一気にダウンロードさせる放送タイプだ」。ニーズの高いものについては放送タイプを利用するなど、コンテンツの内容に応じて使い分けるという。

photophoto 高速ダウンロードサービスの概要とサービスイメージ。70Mbpsの8PSKを使い、スーパーハイビジョンのダウンロードも可能になる見通し。リアルタイムの伝送は不可能でも、ダウンロードなら話は別だ。細切れにしたパケットなら、パイプが細くても通る

 技術なポイントは、TLV(Type Length Value)フォーマットを利用可能として、IP(v4、v6)を含む可変長パケットの伝送をサポートしたこと。これは、PCなど家庭内にあるテレビ以外の機器とインタフェースを共通化するためだ。ユーザーのリクエストに応じて配信する個別のダウンロードサービスに利用するほか、ホームネットワークとの接続性を確保できるというメリットがある。

 もう1つ、検討されているのがデータ放送の“高度化”だ。新たにJavaをサポートし、放送事業者やメーカーが任意のアプリケーションを追加できるようにするという。BMLで記述された現在のデータ放送は、どの受信機で見ても同じ結果が得られる一方、柔軟性には欠ける。例えば、お年寄りが文字を大きく表示したいと思っても不可能。しかしJavaが使えるようになれば、文字の大きさを変えつつ、配置を最適化するアプレットを提供すればいい。

 Javaのサポートは、ARIBのデータ放送規格「ARIB-J方式」を拡張する形で提案されており、UPnPやUPnP AVベースのDLNAガイドライン対応機器と連携する機能も含まれる。つまり、デジタルBSチューナーのデータ放送機能がホームネットワークに参加し、ほかの機器が持つ機能を利用可能になる。例えばBluetoothや無線LANを介して、ゲーム機のコントローラをデータ放送画面内の移動(カーソル移動)に使用したり、携帯電話の画面でデータ放送の天気予報を参照したり、といった具合だ。

photophoto データ放送のデモ。ゲーム機のコントローラで画面内を移動できる。こうした機能は既にある汎用的なLSIで実装可能。写真の評価用ボードでは米シグマデザインのチップを使用していた

 冒頭で触れたとおり、高度BSデジタル放送に関しては現在、ARIBを中心に実証実験が行われている段階だ。2007年12月に実施した室内実験および衛星伝送実験に続き、現在は伝送路符号化方式の性能確認実験が行われている。今後は、これらの実験結果を情報通信審議会へ報告し、“暫定”ではない仕様の策定作業に入ることになるだろう。

 放送開始まで3年。次世代放送サービスの検討作業は、まもなく次のフェーズに移る。

前のページへ 1|2       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.