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オンキヨー「TX-SA606X」で観る「セリーヌ・ディオン/A New Day ライヴ・イン・ラスベガス」の面白さ山本浩司の「アレを観るならぜひコレで!」Vol.15(2/2 ページ)

» 2008年05月28日 12時13分 公開
[山本浩司,ITmedia]
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 昔、ピュアオーディオ製品を中心にビジネスをしていた頃のオンキヨーはというと、精密さを前面に打ち出した、はんなりとした美しい音を演出していて、個人的にはなるほど関西メーカーらしい音だなというイメージを抱いていた。それが、1990年代初頭から立体音響の映画ソフト再生までをまかなうAVアンプに商品の主軸が移ってから、音のタッチが激変したのである。一言でいえば、色濃い音像のリアリティを感じさせるバタくさい音。そんな音に変ぼうしたのだ。

 オンキヨーは、北米の高級AVアンプ市場でインテグラ・ブランドを擁し、高い評価を得ているが、それはほかのメーカーに先駆けて、1990年代初頭からルーカスフィルムのTHXディビジョンとのコラボレーションを確立し、映画再生のための高音質技術を磨いてきたことが最大の要因と思われる。「THX-ULTRA」や「THX-SELECT」といったTHXが定めた規格にいち早く対応し、AVアンプの高性能化に着手した最初のメーカー、それがオンキヨーだったのである。

 1990年代半ばには、ハイエンド・アンプメーカーの米バランスドオーディオテクノロジー(BAT)やプロ用デジタル機器メーカーの米アポジーとのコラボレーションを実現してインテグラリサーチ・ブランドを設立、この日本でも大きな話題となった。このときもアメリカのハイエンド/プロオーディオの技術者との交流を持つことで、同社のエンジニアたちは新しい刺激を受け、旧来の「日本の音」から大きく脱却するヒントを多く得ることになったのだった。

 そんなオンキヨーAVアンプ史の流れを振り返ってみると、最新モデルの「TX-SA606X」も、そのDNAをしっかり受け継いだ高音質を実現しているということが分かり、じつに感慨深い。BDやDVDでさまざまな映画ソフトを体験してみたが、ハリウッド映画をコクのある力強い音像で描ききり、じつに楽しかった。上級機に比べると、低音の軽さ、音に粗さを感じるところもなくはないが、軽い低音がノリよく音楽やセリフを描写し、そのラフな雰囲気が映画をことのほか楽しく見せてくれる要因になったりするから面白い。

 そして、映画ソフトだけでなく、ぼくが本機で聴いてとりわけ感心した音楽BDソフトが「セリーヌ・ディオン/A New Day ライヴ・イン・ラスベガス」(米国盤)だった。

 本作は、2003年から4年間に渡って、ラスベガスのシーザーズ・パレスの特設コロッセウム(つまり彼女のために設えられた巨大なステージ)で繰り広げられていたライブをハイビジョン収録した作品。わが国では、同内容のCDとDVDをパッケージングしたソフトが出ているそうだが、このゴージャスなステージを満喫するには、キレの良いハイビジョン映像とHDオーディオが絶対必要だと思う。

photo 国内盤DVD「LIVE In Las Vegas/ライヴ・イン・ラスベガス」はソニー・ミュージックエンタテインメントが販売中。価格は5040円

 シルク・ド・ソレイユが演出に関わったというそのステージは、まさにプロフェッショナルな輝きに満ちている。ダンサーたちのアクロバティックな群舞と達者なバック・バンドの演奏に乗って、セリーヌもつやのある美しい声で、全力投球の歌を聴かせる。

 ぼくはこの映像作品を見るまで、「セリーヌ・ディオンって確かに歌は上手かもしれないけど、個性があまりないし商業主義の匂いがぷんぷんしてあまり好きじゃない」なんて思っていたのだが、このBD盤を観て、すいません参りました、と思った。やはりアメリカのショービジネスの世界でしたたかに生きる女は凄いのである。

 音声は96kHz/24bit/5.1chマスターをロスレス圧縮したドルビーTrueHD。見どころだらけの本作だが、ぼくがとりわけ好きなのは、背面のスクリーンに映し出された故フランク・シナトラの映像とデュエットするチャプター13の「All The Way」。TX-SA606Xでこの曲を聴くと、彼女の歌にシナトラへの深い敬愛の思いが込められているのが、即座に分かる。

 これぞアメリカ芸能界、ザッツ・エンタテインメント!なこのライブ、前述した色濃い音像のリアリティを感じさせる606Xのバタくさい音がピッタリはまるのである。音の細部は比較的大まかに描くのだが、それがどうしたとでも言うようにふてぶてしい音が聴け、プラチナ・チケットを入手して(実際このライブのチケットを入手するのはタイヘンだったらしい)シーザースパレスの会場でナマを堪能しているようなイリュージョンを味わった。

 ところで、シナトラはイタリア系アメリカ人。セリーヌはフレンチ・カナディアン。二人ともいわゆる白人ではあるが、アングロサクソンでもなくプロテスタントでもない、いわばアメリカ社会の周縁を生きるマイノリティ。しかし、アフリカン・アメリカン(黒人)を含め、こういうマイノリティたちがアメリカの芸能界を支えてきたのだなあと改めて思いを深くした。

 オンキヨーTX-SA606XとヤマハDSP-AX763。HDオーディオにフル対応したAVアンプとしては、どちらも8万4000円の比較的安価な製品だが、上位機に比べても音の狙いが明確で、じつに小気味のいいサウンドを聴かせてくれる。BDレコーダーを入手したら、次はぜひこのへんのHDオーディオ対応AVアンプを狙ってほしいと思う。

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