また、新設された「ディレクター」モードの画質にも大きな感銘を受けた。これはマスターモニターの画質を目指したというたいへん興味深い映像ポジション。部屋の照度20ルクスくらいまで落して、実際にその画質をチェックしてみたが、画面に映し出されている女優さんの肌のコンディションまで克明に描き出してしまうそのハイファイ画質に、息をのんで見入ってしまった。
また、本機がモニター機らしいと思えるのは、ブルーオンリーモードを採用していること。これは、R(レッド)とG(グリーン)の出力をカットし、全画面ブルーだけを表示するモニター機でお馴染みの機能。SMPTEカラーバーを表示して白とブルーの明るさをそろえることでカラー(彩度)調整が、マゼンタとシアンの明るさをそろえることでティント(色相)の正確な調整が可能になる。
このように、KRP-600Mはハイファイ映像を趣味的に楽しみたいという熱心なユーザーにまさにピッタリのモニター機に仕上がっているわけだが、ぜひこのモニター機でその映像をチェックしてみたいと思える映画ソフトが、トム・ティクヴァ監督の2006年作品「パフューム ある人殺しの物語」のBD ROMである。
お洒落なイメージで語られることの多い華の都、パリ。しかし、18世紀のこの街は世界最悪の悪臭漂う都市だったという。当時のパリっ子は、あまり風呂にも入らなかったということもあり、香水がたいへんな人気。
この映画は、当時のパリで最も臭いがひどかった魚河岸で産み落とされたグルヌイユが主人公。じつは彼は数キロメートル先の匂いをかぎわける超人的な嗅覚を持っていて、長じて香水調合師となるが、「究極」の香水の創造にとり憑かれ、それを追い求めて次々に事件を起こすというサスペンス・ドラマ。パトリック・ジュースキントのベストセラー小説の映画化作品である。
怒りや哀しみを超えて、すべての人間がひれ伏し、愛に目覚めてしまう“香り”が存在するという本作のテーマはたいへん興味深いが、後半そんなバカな、としか言いようのない展開となり、官能がすべての理性を超えるというふうにやすやすとは信じられないぼくには、トンデモ映画の1つと思えるが、やはりここは大人向けの寓話(ぐうわ)として本作を楽しむべきなのだろう。
監督のトム・ティクヴァ自身もスコアを手がけた音楽を、サイモン・ラトルが指揮するベルリン・フィルを演奏しており、その荘厳な響きをドルビーTrue HDとリニアPCMの高音質なサラウンドサウンドで楽しめるのが本作の魅力。また、18世紀のプロヴァンス地方の風景を捉えた映像の美しさ、夜の闇の中にフッと現れるグルヌイユと若く美しい女性たちのコントラストの妙も本作の大きな見どころだ。
とくに夜のパリで果物を売る赤毛の女性の匂いにつられて後を追いかけるグルヌイユが、暗闇の中から登場するシーンは、ディスプレイのローライトのホワイトバランスと暗部階調の描写力が厳しく問われるところ。今のところ、この場面を完璧に描けるテレビ、プロジェクターは皆無といっていい。視聴日にはあいにくこのソフトを持参していなかったのだが、先述したように、黒と暗部階調の表現に突出した魅力を持つ600Mがどんなふうにこの官能的なシーンを表現するのか、今度改めてじっくりチェックしてみたいと思った。
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