ダビング10とは、デジタル放送番組の著作権保護機能に関する統一呼称のこと。広く浸透させるために電子情報技術産業協会(JEITA)が設けた呼び名で、総務省の情報通信審議会で提案されたデジタル放送の私的利用を巡る運用ルールがその本質だ。その具体的な内容と登場までの経緯については、本連載の過去記事を参照して欲しい。
当初予定より約1カ月遅れた理由だが、かんたんに言ってしまえば「補償金(私的録音録画補償金)をどうするか」だ。
著作権者側は、コンテンツの適正な保護とクリエイターが適正な対価を得られる環境の実現を掲げ、私的録音録画補償金制度対象機器の見直し案を提示。現在対象外とされるポータブルオーディオやHDDレコーダー、次世代DVDなどについても、補償金の対象に含めるよう要求していた。5月に開催された私的録音録画小委員会では、対象にiPodなど「携帯用オーディオレコーダー」とHDDレコーダーなど「録音録画を主たる用途としている機器のうち、記録媒体を内蔵した一体型のもの」を加える文化庁案も提示されている(iPodにも補償金を――文化庁が案提示)。
一方の家電メーカー側は、要求が過大であるとして反発。著作権者側も「これまでの議論のちゃぶ台返しだ」としてメーカー側を批判、これを直接のきっかけとして、ダビング10の開始が延期されることになった。
すったもんだのあげく7月4日にスタートしたダビング10だが、いくつか未解決の事案を抱えている。これも突き詰めれば、前述の「補償金」を巡る問題だ。
1つは補償金制度対象機器について。文部相と経済産業相が6月17日までBlu-rayディスク(BD)とBD録画機を補償金の対象へ加えることに合意したが、HDDのみのレコーダーやポータブルオーディオプレーヤーは対象外のまま。権利者側は「BD課金に関する省庁合意がきっかけでダビング10について譲歩したとみられているが、それは本旨ではない」と述べている。
もう1つは、補償金制度そのものの将来について。DRMが進化/普及するという認識のもと、基本的には縮小する方向性を文化庁側は示してるが、著作権者側は懐疑的だ(「DRMが普及すれば補償金縮小」で合意へ)。
業界のルールとしてダビング10がスタートした以上、突然の中止や大幅な制度見直しが行われるとは考えにくく、この2つの問題がどのような決着を見るかは不明だ。AV機器および記録メディアの価格に反映される可能性を内包するだけに、消費者としては私的録音録画補償金制度のゆくえを注視すべきだろう。
執筆者プロフィール:海上忍(うなかみ しのぶ)
ITコラムニスト。現役のNEXTSTEP 3.3Jユーザにして大のデジタルガジェット好き。近著には「デジタル家電のしくみとポイント 2」、「改訂版 Mac OS X ターミナルコマンド ポケットリファレンス」(いずれも技術評論社刊)など。
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