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コラム
» 2008年07月22日 10時30分 公開

「撮影」の暴力化について考える小寺信良の現象試考(3/3 ページ)

[小寺信良,ITmedia]
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中傷は制御可能か

 もう1つの問題は、一般人に向けられるいわれなき中傷である。ニコニコ動画を引き合いに出すまでもなく、今ネット上にあるあらゆるものに対して、コメントが付けられるようになりつつある。

 自分のホームグラウンドでしょうもないコメントをつづっても見てもらえる可能性はほぼないが、広く掲示されたものに対して意見を貼り付けられるのは、自己顕示欲を満足させる。また同じコメントを多数派の1人として書き込むことで、それに参加したと感じ、連帯感や帰属意識も満足させられる。野球場でブーイングが始まると、すぐにそれが広がるのと同じ理屈である。

 もっともこの現象は、否定的なことだけに限定されない。肯定的な行動、例えば賞賛の拍手が伝播するのも、おなじ理屈であると考えられる。

 肯定・否定というのは、対象者の行為や発言に対する評価によって起こる行動である。それらは世の中の正当性や公平性を担保する上で重要な概念だ。しかしニコニコ大会議の例が提起したのは、容姿など変えようもない部分に対する中傷を、どのように防止したらいいかということである。

 1つ見逃せないポイントは、これがリアルタイムで行なわれたことである。記録・保存されているものであれば削除することができるが、リアルタイムで書き込まれて流れていくものは、書き込む段階を制御しなければならない。

 この解決は、一見するとモラルの問題であるかのように見える。しかしすべてを教育のせいにして、「これだからゆとりは」などと言っているうちは、何一つ問題は解決しない。筆者は、現代人で常時インモラルな人というのは、存在することができないと思っている。だからその根底には、一時的にインモラルな状態を誘引するシステムや環境の存在があると考えられる。

 多くの場合中傷が書き込まれるのは、自分は匿名という安全性が確保された上で、誰が発言したのか特定できない状態だからである。普通の良識があれば、本人を目の前にしてリアルでそのような発言はしないだろう。なぜならば、その場で張り倒されたり、周囲の人から中傷したことを非難されるからだ。中傷発言に対するリスクが大きすぎると予測できるから、やらないわけである。

 では匿名性を排除して、なんらかのユーザー情報を取ればいいのか。だがそうすればおそらく、書き込む人が居なくなってしまうだろう。本来行なわれるはずだった有意義な発言も、一緒に失われてしまうかもしれない。

 では匿名性を維持した上で、モラルを意識させることは可能だろうか。ここで無責任な中傷は、自分のことを棚に上げることで可能になると仮定してみる。例えばイチローの三振を非難できるのは、自分がイチローより優れたバッターであるかという問題を棚上げするから可能なのである。

 この理屈で行けば、自分の姿を顧みれば、他人の容姿を中傷することは難しくなるはずである。したがって今回のようなリアルタイムの書き込みを行なう者は、システムとしてWebカメラで自分撮りすることを必須にすればいいのではないか。そのカメラの映像を公開する必要はないが、つねに画面の片隅に自分の顔が写っているわけである。すなわち自分自身のアイデンティティを意識させることで、自分のことを棚に上げる精神状態に落ち込むことが阻止できるのではないか。

 もちろんこれは試考であり、当人がものすごいナルシストだったり、本気で美男美女だった場合は無効である。またこの実現が現実的だと考えているわけでもないが、人の行動を深層でコントロールするシステムをデザインするというのは、可能なのではないかと思う。

 ネットはすべてのものをフラット化する。大人数も少人数も、晴れの舞台も日常もすべて同じ空間に押し込める。一方でモラルとは、さまざまなTPOをかんがみて自らの行動を制御することである。つまり今のネットの姿とモラルは、相性が悪い。ネットになんらかの秩序をもたらすには、ネットにもTPOを意識させるデザインを持ち込む必要がある。

 もちろんその方法論は、手法として固定化されれば、サブリミナル効果と同様の制限を受けることになるだろう。しかしもっとノウハウの領域に於いて、Web上のシステムデザインと人間行動学は、研究されなければならないと思う。

小寺信良氏は映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。最新著作は小寺氏と津田大介氏がさまざまな識者と対談した内容を編集した対話集「CONTENT'S FUTURE ポストYouTube時代のクリエイティビティ」(翔泳社) amazonで購入)。

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