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第1回 画質も迫力も圧倒的なA3ノビプリンタを選ぶ秋のA3ノビプリンタ特集(3/4 ページ)

» 2008年09月12日 11時15分 公開
[榊信康,ITmedia]

PIXUS Pro9500(キヤノン) 顔料系10色インク

キヤノンの「PIXUS Pro9500」。実売価格は7万8000円前後

 2007年5月18日に発売された「PIXUS Pro9500」は、キヤノンが満を持して投入したコンシューマー向けA3ノビ顔料インクジェット機の第1弾だ。それだけに気合が入っており、画質はもとより、ハードウェアの細部に至るまで、さまざまな配慮がなされている。

 Pro9500のインクセットは、全10色というぜいたくな構成だ。インクは、シアン、マゼンタ、イエロー、グリーン、レッド、フォトシアン、フォトマゼンタ、フォトブラック、マットブラック、グレーという内訳で、ビジネス機「ImagePROGRAF」の12色モデルからフォトグレーとブルーを削った形になっている。

 薄いフォトグレーのインクがないため、使う前はモノクロの品位に不安があったが、実際にプリントしてみるとキレイな階調が描けていた。妙な色転びもなく、しっかりとしたモノクロプリントが行える。ただ、グレーインクの消費がかなり激しいのが気になった。グレーインクはモノクロプリントだけでなく、カラープリント時にもベースとして大量に打ち込まれるので、数本のリザーブは用意しておいたほうがよいだろう。

インクタンクは各色独立式で、全10個と搭載数が最も多い。カートリッジは誤装着やインク切れを知らせるLED付きだ

 もちろん、カラープリントの品位も悪くない。前記の通り、グレーで下地を作って、そこにカラーインクを打ち込んでいくため、カラーバランス、階調ともに破たんがなく、高品位のプリントが可能だ。色味はPro9000とは異なり、プリンタドライバのデフォルトでも強すぎることはなく、適度にメリハリが利いている。ICCプロファイルのできもよいので、よりオリジナルの色に近づけたい場合に用いるのがおすすめだ。

 このように印刷品位に文句はない一方、今回紹介する機種の中では印刷速度が遅いことは覚えておきたい。Pro9000のようにモノクロモード使用時でも極端に低下することはないが、L判印刷(最高品位/フチなし)でも4分強の時間を要す。画質重視のこのクラスでも、印刷速度が速いに越したことはないので、ネックといえばネックだ。印刷速度については、次回以降で検証していく。

 インクのノズル数は各色768ノズルと多く、最高4800×2400dpiでの印刷が可能だ。インクドロップは3ピコリットルとなっている。

背面上部にオートシートフィーダ、前面に手差しトレイを備える。アート紙の印刷は上下端35ミリの余白が必要

 ボディはボクシーデザイン、色はブラックを採用。エプソン機と比べると、天板が水平でさらに直線的なデザインだ。操作ボタンは前面の右側に集約しており、デジタルカメラ接続用のインタフェースとして、PictBridge対応USBを1基持つ。PC接続用のインタフェースはUSB 2.0を採用するが、端子の数は1基とエプソン機より少ない。

 給紙機構は背面上部のオートシートフィーダと前面の手差しトレイ(CD/DVDレーベル印刷対応)の2種類から選択可能だ。オートシートフィーダはJパス、手差しトレイは水平パスだが、本機はスイッチバック機構を取り入れており、フロントトレイを上げ下げするだけでパスが切り替わるよう設計されている。紙送り専用のボタンもあるため、給紙ミスが起きることがなく、ストレスなく水平パスでの印刷が行えるのはありがたい。

 このほかにユニークなのは、半切のプリントサイズに対応するため、通常のA3ノビ機よりも給紙口を3センチほど大きく取っていることだ。もちろん、プリンタドライバには半切、六切、四切のサイズがプリセットされ、純正メディアもそれぞれ用意している。この辺りは、いかにもカメラメーカーらしく、銀塩写真からのファンにはうれしい配慮といえる。

向かって右側面の奥にPC接続用のUSB 2.0ポートを搭載(写真=左)。前面の右下にPictBridge用のUSBポートも備えている(写真=中央)。フロントトレイを上げ下げすることで、CD/DVDレーベル印刷用パスに切り替えられる(写真=右)

本体サイズは660(幅)×354(奥行き)×191(高さ)ミリ、重量は約15.4キロ。高さは抑えられているが、幅と奥行きは長めだ。使用時にはトレイが前後にかなり伸びる

PIXUS Pro9000(キヤノン) 染料系8色インク

キヤノンの「PIXUS Pro9000」。実売価格は5万4000円前後

 キヤノンの「PIXUS Pro9000」は、ここで紹介するA3ノビ対応インクジェットプリンタの中では唯一の染料インク搭載機だ。発売は2006年9月末で、2年近く前から販売されている(発表はPro9500と同時だったが、Pro9500は販売開始が遅れた)。

 A3オーバーのクラスで顔料インクの製品が大半を占めているのは、耐侯性や定着時間の関係からだが、染料インクの鮮明な発色、透明感は顔料インクでは得がたい。このため、作品を作り込むプロカメラマンは、意外なほどに染料ファンが多い。光沢感についても同様であり、透明樹脂のグロスオプティマイザをインクとは別に搭載して印刷の光沢感に配慮した顔料インク機のPX-G5300であっても、やはり染料インクの出力と比べれば歴然とした差が存在する。

 Pro9000のインクセットは、写真印刷向けの染料インク機でおなじみのシアン、マゼンタ、イエロー、フォトシアン、フォトマゼンタ、ブラックの基本的な6色構成に、グリーンとレッドを加えた全8色構成を採用している。つまりインクシステムとしては、Pro9000の前任である「PIXUS iP9910」(あるいはさらに前の「PIXUS 9900i」)と同等ということになる。インクのノズル数は各色768ノズルであり、数はPro6500と同じだ。最高解像度は4800×2400dpi、インクドロップは全弾2ピコリットルで打ち込む。

8個のインクタンクは各色独立式を採用。カートリッジには誤装着やインク切れを知らせるLEDを搭載する

 9900iは2004年4月に発売ということもあり、登場からかなりの期間を経たインクシステムだが、染料インク機は歴史がそれだけ長く、技術もこなれているので、大きな不安材料ではない。事実、カラープリントは不満のない品位を保っており、染料インクならではの鮮やかな発色と光沢感が味わえる。プリンタドライバのクセはやや強いが、ドライバの設定やICCプロファイルで十分に対応は可能だ。

 懸念されるのはむしろ、グレーのインクが不在なことだろう。このクラスはモノクロの品質も重視されるため、色が転びやすいプロセスブラック(カラーインクの混合でブラックを生成)では、ユーザーへの訴求力に欠ける。実際にドライバの標準モードでのモノクロプリントでは、派手に色が転ぶこともあり、今回集めた機種の中では分が悪い。

 とはいえ、キヤノンもわざわざ“Pro”と銘打つからには対策は行っている。これがドライバに搭載されたモノクロ印刷モードだ。このモードを使用すれば、かなり色転びを抑えたモノクロプリントが可能となる点は覚えておきたい。

 ただし、モノクロ印刷モードには、極端にプリントスピードが低下するという欠点も存在する。A4サイズのプリントでも10数分の時間を要するのだ。また、品質保証範囲の問題もある。キヤノンが品質を保証する範囲は、上下端45ミリより内側のエリアとなっている。A3やA3ノビならば問題ないが、A4だとどうにか実用レベルといったところだろう。あくまでも推奨なので、エリア外でも印刷することは可能だが、データによってはバンディングが目立つ結果になってしまう。

背面上部にオートシートフィーダ、前面に手差しトレイを配置。アート紙の印刷は上下端35ミリの余白が必要だ

 ボディはPro9500とほぼ同じ直線的なデザインだが、配色はブラックと明るめのシルバーのツートーンとなっている。給紙機構も同様で、背面上部のオートシートフィーダと前面の手差しトレイ(CD/DVDレーベル印刷対応)が選択できる。もちろん、パスは前面トレイの上げ下げで切り替えることが可能だ。

 また、Pro9500では触れなかったが、PIXUS Proのボディには、背面の底部に小さな車輪を装備しており、前面側を手で持ち上げると、ボディを楽に前後移動できる。目立たぬ機構ではあるが、限られた設置スペースで運用する場合には重宝するだろう。

 PC接続用のインタフェースはUSB 2.0を1基装備。また、デジタルカメラ接続用のインタフェースとして、前面にPictBridge対応USBも1基備えている。

向かって右側面の後方にPC接続用のUSB 2.0ポートを搭載(写真=左)。前面にはPictBridge用のUSBポートも備えている(写真=中央)。CD/DVDレーベル印刷も可能だ(写真=右)

本体サイズは660(幅)×354(奥行き)×191(高さ)ミリとPro9500と同じだが、重量は約14キロとなっており、約1.4キロ軽い。こちらも使用時にはトレイが前後にかなり伸びる

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