現在A4インクジェットプリンタ市場では、単機能プリンタのラインアップが大幅に縮小し、複合機が主流になっている。これらの多くは、付加機能を山のように搭載することで、製品の総合的な価値を引き上げる傾向が強い。
確かに、プリントヘッドや用紙の搬送機構を強化するより別の機能にコストを割いたほうが、一般家庭での受けはよいのだろう。これを裏付けるように、ローエンドからハイエンドに至る製品のクラス分けは、印刷品質や出力性能よりも搭載する機能を重視して行われているのが目立つ。
こうした流れに異を唱えるつもりはないが、以前からインクジェットプリンタに高度な写真画質を求めてきたユーザー層にとっては、複合機の「そこそこ」な画質では物足りなさを感じてしまうのが事実だろう。そこで、このような層に着目して各社が力を入れているのがフォトプリント向けのA3ノビ機である。
画質の面でA4複合機との決定的な違いは、インクセットの構成だ。A4複合機は対象がライトユーザーということもあり、ランニングコストの低減にも配慮しなければならない。結果として、インクの数はレギュラーインク4色(あるいは3色や5色)だけというパターンが多く、せいぜいライトインクを含めても6色構成に限られる。
その点、今回紹介するA3ノビ機のインクセットは、いずれも6色を超える多色で構成されており、インク自体も写真印刷に特化したものなので、階調の再現性や発色、色域で勝っている。機種によって、それぞれ得手不得手の違いこそあれ、いずれも高い表現力を備えていることから、デジタル写真を扱うプロやハイアマチュアを中心に支持者が多い。
また、A3ノビという印刷領域の大きさも写真ファンにはうれしいところ。単純にサイズがもたらす迫力だけでもA4と格段に異なるが、何よりも細部の描写がじっくりと楽しめることが最大のメリットだ。1000万画素クラスのデジタルカメラで撮影したデータでもそれは感じられるし、2000万画素クラスだと細部の見え方がまた違ってくる。
そして、A3オーバーになると、アート紙、テクスチャ紙、キャンバスなど、高品位なプリントメディアが充実してくるのも大きな特徴である。A4機でも自分で裁断すれば多彩なメディアを使用できるものの、かなり紙粉が出るし、正確にカットするのは難しい。また、紙の厚さによっては、用紙の搬送がうまくいかない場合もある。それに、紙の持つ質感を存分に楽しむには、それなりの面積が必要になる。やはり、こうした特殊な用紙はA3以上でこその楽しみといえるだろう。
このような理由から、現状で本当に写真を楽しむためのプリンタを個人で所有したいと考えるならば、A3ノビ機を購入するのがベストだ。年末に向けて複合機を買い替える予定の人も、写真をもっと高品位にプリントしたい場合は、ぜひA3ノビ機を検討してほしい。複合機とは性質が異なる製品なので、家庭のリビングには複合機、自室のPC周辺にA3ノビ機といった使い分けをするのもいいだろう。もちろん、A3機はよい部分ばかりではなく、ランニングコストはかさむし、広い設置面積も必要になる。しかし、A4機ではけして味わえないプリントが楽しめるはずだ。
本特集ではそんな写真印刷に特化したA3ノビ対応インクジェットプリンタに着目し、セイコーエプソン、キヤノン、日本ヒューレット・パッカードから販売されている5機種を横並びでじっくりと比較していく。第1回は各機種の特徴を順に見ていこう。
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