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「プロフ」の何が問題か小寺信良の現象試考(3/3 ページ)

» 2008年10月15日 08時30分 公開
[小寺信良,ITmedia]
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消えない情報

 プロフで不用意に個人情報をさらせば自分にとって不利益があるということは、具体例を出すまでもなく「変なヤツが寄ってきたら困るだろ」と言えば、中高生は理解する。簡単なことのはずだが、なぜそれをやってしまうのだろうか。それは基本的に、ケータイサイトというものの意味を本当には分かっていないことに起因する。

 電話は長らく、個人と個人をつなぐものであった。それが携帯になっても、しばらくはそうだった。現在も通話やメールは、基本的に個人と個人をつなぐものである。しかし「サイト」は違う。最初は広く情報を探すためのツールとして登場したが、情報を発信できるようになった。サイトに向かって出力された情報は、対個人ではなく、極端に言えば対全世界である。

 技術や情報の教科書ベースでは、この点を分かっている子も多い。分かっていないのは、これだけたくさんのページがあるんだから、自分のものは見つかりっこないと思っているところである。その根拠は、携帯特有の情報に対するアクセシビリティの悪さに原因がある。まず携帯の小さな画面では俯瞰(ふかん)性が低いというのが1つ、もう1つは動作速度の遅さである。つまり誰もが、自分と同じ不自由さでアクセスしていると思っている。

 しかしほとんどのプロフサイトは、PCからも閲覧可能である。高速回線で接続し、タグブラウザでいくつものページに同時にアクセスすれば、その網羅性は恐るべきものとなる。その点が理解できていない。

 もう1つは、出した情報は消せば終わりだと思っている点である。携帯ではPCなみの画面保存機能はないが、PCを使えばいくらでもスナップショットが取れるばかりか、そこで拾った情報をデータベース化することもできる。ネット上からは消えたように見えても、情報を収集し、ローカルに保存している人の存在を理解していない。

 特に写真は、問題があるものならば、ほぼ永遠に残る証拠となる。簡単に転送されて、別のサイトにリレー式に貼り付けられてゆくからだ。掲載された情報を巡ってプロバイダに個人情報の削除を求める例が後を絶たないが、1つのサイトの情報を消しても根本的な解決にはならない。情報はネットに載った時点で、一人歩きするものなのである。

 さらに、サービスの利用を通じて運営側が得る情報がどのように利用・管理されるのか、実はユーザー側がちゃんと把握していないことも問題だ。

 「前略プロフィール」を例に取ると、利用に際してはまず空メールを送信する。この時点ですでにメールアドレスは先方に渡っている。同時にプロフィール用のID(数字)が割り当てられ、返信されてきたメールのURLにアクセスすることで、 利用規約に合意、パスワードを自分で設定する。このとき携帯からのアクセスだと、端末識別番号も先方に渡ることになる。

photo 携帯で利用手続きを行なった場合、端末識別番号の送付が必須となっている

 個人情報利用規約は、楽天のそれに準ずる(【楽天市場】個人情報保護方針)ことになっている。楽天の個人情報保護方針によれば、前略プロフィールに入力した情報は、楽天全グループ会社と、楽天と契約を結んだ外部のサービス提供者間で共有される。大変広範にわたる情報の転送が行なわれている。

photo 個人情報は、楽天グループのそれに準ずることになる

 おそらくプロフを利用する子供たちは、そこまで考えていないだろう。またその情報が渡ったから何だ、という話でもあるだろう。前略プロフィールの場合、利用開始時に渡されたIDとパスワードで、ページの削除が可能だ。そのとき楽天グループに渡された情報も、同時に削除されるようになっているそうである。

 しかし個人情報がこのような扱いになることは、サイトのどこにも書かれておらず、個別に問い合わせて初めて分かった。ほかのプロフサイトが同様の運用をしているかどうかまでは、定かではない。

 プロフの問題は、よく言われているような援交や架空請求といった犯罪に巻き込まれやすいというだけでない。携帯コンテンツの事業者が明文化された規約を用意しないままで動いてしまっており、将来どのような不利益が起こるか想像ができないのである。最大の利用者を誇る「前略プロフィール」でさえ、サービス固有の明文化された規約が存在しないのだから、それをモデルにしたサイトはもはや推して知るべきであろう。

 まずは自分でネット上にまいた情報は制御不能であるということを、子供たちの共通認識とする必要があるだろう。プロフというサービスそのものを敵視するだけでは、類似サービスが現われたときにまた同じ問題を繰り返すことになる。今の段階で、初動を間違えないようにしなければならない。

小寺信良氏は映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。最新著作は小寺氏と津田大介氏がさまざまな識者と対談した内容を編集した対話集「CONTENT'S FUTURE ポストYouTube時代のクリエイティビティ」(翔泳社) amazonで購入)。

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