VoIP(Voice over IP:IP電話)とは、符号化/圧縮した音声データをIPネットワークでやり取りし、音声通話を可能にするサービスのこと。インターネットを利用した音声通話サービスは90年代から存在するが、PCの利用が前提であることや、音声遅延が発生しやすいなどといった技術的な問題により、当時は一部ユーザーにしか受け入れられなかった。
しかし高速かつ定額のインターネット網が普及したことを受け、NTT地域会社を含め通信各社がVoIPサービスを本格化。通話料金の低さにくわえ、モデムを設置する程度でサービスを利用でき、従来の電話機と電話番号も使えることから、急速に普及し始めた。その結果日本におけるIP電話の世帯普及率は、2007年度時点で22.9%に達している(インターネット白書2008より)。日本のブロードバンド回線世帯普及率が6割近い状況もあわせれば、この勢いは当分続くものと予想される。
急速に普及するVoIPだが、それは固定電話に限られている。主な携帯電話各社は、下落傾向にあるとはいえ音声通話はいまなお収益の柱であることなどから、VoIP導入に関しては積極的ではないと考えられている。NTTドコモは無線LANで高速通信と低額通話が可能な「onefone(N906iL)」を販売しているが、VoIPは限定的にしか使用できない。
技術的な課題もある。VoIPサービスを提供するには、IMS(IP Multimedia Subsystem)と呼ばれるパケット交換用システムの導入が必要だ。リアルタイム性が求められる音声データを扱うため、音声用パケットに対し優先的に帯域を割り当てる機能(QoS:Quality of Service)も必要になる。3G通信網が整備段階にある現時点では、いますぐのVoIP対応は考えにくい。
携帯電話通信網を使うVoIPの実現と普及は当分先になりそうだが、通話可能な場所がピンポイントで構わなければ話は変わってくる。無線LANアクセスポイントを使う、という手があるからだ。
実際、iPhone/iPod touch用アプリ「fring」を利用すれば、fringユーザー間もしくはSkypeなど対応サービス間でも音声通話が可能だ。固定電話向けVoIPサービスのように制度が整備されていないため、使い勝手は従来の電話に比べ見劣りするが、実用に耐えうる品質の音声通話が実質無料で利用できる。高速データ通信網整備までの「つなぎ」として、携帯電話で無線LANを活用する事例は今後も増えそうだ。
執筆者プロフィール:海上忍(うなかみ しのぶ)
ITコラムニスト。現役のNEXTSTEP 3.3Jユーザにして大のデジタルガジェット好き。近著には「デジタル家電のしくみとポイント 2」、「改訂版 Mac OS X ターミナルコマンド ポケットリファレンス」(いずれも技術評論社刊)など。
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