2010年、シュアーのカナル型ヘッドフォンのフラッグシップが「SE535」へと生まれ変わった。それと同時にリニューアルされたのが、ミドルクラスの「SE315」である。専用開発されたバランスド・アーマチュア型ドライバーをシングルで搭載、同社がベースポート技術と呼ぶ独自のケース構造を採用することで、帯域バランスの良いサウンドを実現している。
またケーブルには耐久性の高いケブラー素材をチョイス、同時に着脱式を採用することで、耐久性を高めるとともに、ケーブル交換による使用年月の長期化や自由なカスタマイズが行える楽しさなども提供している。
上位モデルのSE535が着脱式ケーブルになったことも嬉しい限りだが、2万円未満のミドルアッパークラスでもこの着脱式を採用してくれたことは本当にありがたい。これで筆者のようなうっかり者でもケーブルを引っ張って断線し、悲しい目にあう可能性が断然低くなる。さらに今後いくつも登場するだろうサードパーティー(というべきかどうか悩むが)製のカスタマイズケーブルに交換して、音の違いを楽しむのも良いだろう。
ケブラー製のケーブルは硬すぎず柔らかすぎず、さらっとした肌触りで絡みにくい。素材のおかげもあってか、タッチノイズはY分岐から本体側では確かにあるものの、全くといっていいほど気にならない。ケーブルを耳の上にまわす「耳掛け装着」タイプだが、ワイヤーが備わるため装着時に外れてしまう不便もない。ステージ用イヤーモニターがベースなので、耳から本体が飛び出すこともないのも見た目がよい。音漏れもほとんどない。
何というクリアでダイレクトな、距離感の近い音だろう。とてもリアルで実体感の高いボーカルが、目の前で切々と歌い上げてくれる。まるで密閉箱を持つ小型の高級スピーカーを聴いているかのよう。とくに女性ボーカルは、声のつややかさが強く感じ、歌い方ものびのびとしている。そのうえ声質がリアルで、声帯の震えまで感じとれそう。かといって男性ボーカルに不満があるわけではない。こちらも低域の倍音成分がしっかり追従した、厚みのある歌声を披露してくれている。アコースティックギターも繊細でリアルな音色がとても心地よい。
シングルドライバーのため、SE535に比べると確かに高音は重奏感がなく、低域も明らかに量感不足だが、そのぶん信じられないくらい中域のフォーカスが良好なため、ほんの1〜2分聴いているだけでそれらのマイナスポイントが気にならなくなり、すぐに演奏に夢中になれる。これぞフルレンジならではの素晴らしさを生かしきった製品といえるだろう。携帯プレーヤーに付属している安いヘッドフォンのドンシャリ感を卒業したい人にはとくにおすすめ。最初は「これでは刺激が足りない」と思ってしまうかもしれないが、それは感覚が麻痺している証拠なのだ。
音質評価 | |
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解像度 | (粗い−−−−○きめ細かい) |
帯域幅 | (ナロー−○−−−ワイド) |
帯域バランス | (低域重視−−○−−フラット) |
音色傾向 | (ウォーム−−○−−クール) |
メーカー | シュアー |
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製品名 | SE315 |
型式 | バランスド・アーマチュア型 |
音圧感度 | 116dB/mW |
再生周波数帯域 | 22〜1万8500Hz |
インピーダンス | 27オーム |
コード長 | 1.6メートル(着脱式) |
プラグ | 3.5ミリステレオミニプラグ |
価格 | オープン |
関連リンク | メーカーの製品ページ |
今回の試聴には、リファレンスとしてアルティメットイヤーズの高級機「TripleFi 10」を使用した。こちらは発売されてからしばらく経過しているモデルだが、フラット&ワイドな帯域特性やダイナミックでリアリティーの高い音色、ひずみなく整った帯域バランスなど、いまでも多くの人から人気を集めている。こちらをフルマーク(音色傾向に関してはちょうど中間)と考え、各モデルを相対的に評価した。
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