ビクター・JVCの新製品「HA-FXT90」は、「HA-FXC71」で採用した小口径振動板のノウハウを生かし、低域用と中高域用の2つのダイナミック型ドライバーを配置するという、カナル型イヤフォンの常識を覆すエポックメイキングな製品だ。
メタル製のベースに上下に2つ配置されたドライバーは、ともに5.8ミリ径をチョイス。振動板素材は、低域用にカーボン、中高域用には話題の高強度素材であるカーボンナノチューブを採用することで、応答性とひずみの低減とを両立させている。なお、2つのドライバーユニットは、クロスオーバーを活用してそれぞれ担当する帯域を分ける2ウェイ方式ではなく、再生帯域の異なるフルレンジユニットを2つ並べて音を重ねるツインドライブ方式を選択している。加えて、メタルベースとともにハウジングも金属素材にすることで、不要な振動や歪みを廃し、より原音に忠実なサウンドを追求した。
バリエーションは、ブラック&クロムカラーを基調としたレギュラーモデルのほか、ダイヤモンドカットを施された赤いハウジングと赤い編組コードを採用するリミテッドエディションも限定発売されている。
ダイナミック型ドライバー2つ搭載という、いままでにない構成ながらも、ユニットのレイアウトがなかなか巧みで、本体は充分コンパクトなサイズにまとめられている。装着時に本体が大きいと感じたり、かさばったり重かったりしてと耳からポロッ落ちてしまうようなことはない。
また、ケーブル表皮の素材に工夫が凝らされているのか、収納時にコードが絡んでしまうようなこともなく、使い勝手は上々といえる。タッチノイズは多少あるものの、同社既存製品と同レベルのため試聴中に気になるほどではない。ケーブル長は1.2メートルあり、ポータブルプレーヤーのレイアウトも自由度が高くて好感が持てる。
使用上で唯一残念な点は、HA-FXC71と同様、耳穴にしっかり入れようと押しなおした際に振動板(もしくはどこかのスクリーン)が「ビチビチ」と音を立てることだ。試聴者に全く害はないが、快い音ではないし、不可抗力で本体のどこかを痛めているかのような気持ちになるので、何かしらの対策を講じてもらえるとありがたい。
原音に忠実であることをよしとする、スタジオモニター志向の強いメーカーだけに、そのサウンドはストレートかつダイナミックを信条としたイメージ。とくに中域に関しては音のひずみや余計な付帯音がだいぶ押さえ込まれており、かなりリアリティーが高い。エレキギターなどは、エフェクターのかけ方の違いや演奏のピッキングの強弱がとてもよく分かる。
いっぽうでレンジ感も、HA-FXC71に対してはかなりのワイドさ、自然な伸びやかさを誇る。解像度感も充分にあり、ダイナミックレンジが広いこととも相まって抑揚がとても豊か。演奏がイキイキとしている。このあたりはツインドライバーの恩恵といえるだろう。
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