三菱電機は11月15日、3D対応のDLPプロジェクター「LVP-HC7800D/DW」を発表した。同社は今年春にSXRD搭載の「LVP-HC9000D」を投入しており、異なるデバイスを併用する珍しいメーカーとなる。また、LVP-HC7800D/DWでは専用3Dメガネに初めて強誘電液晶を採用している点もユニーク。同社営業部ホームシアター担当部長の佐藤岳氏に詳しい話を聞いた。
LVP-HC7800D/DWは、三菱のホームプロジェクター製品ではミドルクラスに位置づけられる。価格はオープンプライスで、店頭価格は32万8000円前後になる見込み。型番や値付けからも中級機であることは理解できるが、実際の映像を見ると3Dの映像品質については上位機を完全に超えている。「高速応答が特長のDLP、そして強誘電液晶を採用した高速シャッターメガネの採用で3D映像が見やすく、美しくなった」(佐藤氏)という。
テレビやプロジェクターに用いられるフレームシーケンシャル方式の3D表示は、1つの画面に2つの映像を交互に映し出すという仕組み上、時間的に左右の映像セパレーションがうまくできないとさまざまな問題が生じる。よく指摘されるのは、左右の映像が混じって二重像になる“クロストーク”、画面がちらつく“フリッカー”、そして画面の明るさ低下だろう。またクロストークと誤認されることも多いが、残像によるボヤケ感(ジャダー)も「2D以上に3Dでは目立つ」という。
例えば同社がLVP-HC9000Dで採用した従来のSXRDでは、全画素を一度に描き替えることができず、そのぶん液晶シャッターを閉じている時間が長くなり、画面輝度の低下につながる。輝度を上げようとシャッターを閉じる時間を短く設定すると、今度はクロストークが見えてくるジレンマがあった。
対してDLP方式は、全画素の一括描き替えが可能。「しかもレスポンスがSXRDや透過型液晶より1ケタ速く、左右のセパレーションがうまく行える」(佐藤氏)という。
LVP-HC7800D/DWでは、TI(テキサス・インスツルメンツ)の「DarkChip3」を採用。0.65型のフルHD対応DMD(Digital Mirror Device)と6セグメントのカラーホイールを使用する。ただし、TI方式(デバイスメーカーのTIがセットメーカーに提案している方法)は、一般的なTN方式液晶シャッターメガネを想定したもので、カラーホイールが1回転するうち、半分の3セグメント分に相当する時間をブランキング(液晶シャッター閉)に使用する仕様だった。「TN型では、2ミリ秒以上の時間がないとブランキングできず、輝度は40%低下する」(同氏)。つまり、DLPの高速応答を生かしているとは言い難い。
このため三菱では、液晶シャッターメガネにTN方式より10倍以上高速な強誘電液晶の採用を検討した。強誘電液晶は、主に電子ビューファインダーなどに使われているもので、国内ではシチズンのみが製造している。佐藤氏は、「とにかく3Dメガネに使うなど初めてのこと。最初は供給元にも『何に使うんですか?』と何度も聞かれた」と笑う。
しかしその効果は絶大。前述のようにTN方式がカラーホイールの半分に相当する時間が必要だったのに対し、強誘電液晶ではRGBの各セグメントを区切るスポーク(つなぎ目)部分だけをブランキングに使用すれば切替が可能になったという。「スポークは、もともと(映像表示に)使っていない部分。つまり、2Dと3Dを比べてもブランキングによる輝度低下がほぼ発生しない」。
もちろんメガネを透過することによる輝度落ちは起きるが、例えばメガネをしたまま2Dと3Dを切り替えても明るさの感じ方は同じだ。また、視聴者にとっては黒が挿入される時間(ブランキング)が圧倒的に短くなるため、目に対する負担が軽くなる効果も期待できる。実際のブランキング時間は、従来のD-ILAや透過型液晶に比べて10分の1以下という。
その代わり、いくつかの課題も出てきた。例えば繊細な強誘電液晶は物理的なショックに弱く、専用メガネでは2枚のガラスの間に強誘電液晶を挟み、周囲にショックアブソーバー機構を設ける必要があった。複雑な構造により、メガネの重量は約95グラム。昨年なら特別重いわけではないレベルだが、各社が3Dメガネの軽量化に取り組んだ今年の製品と比べるとやはり少し重い。
また強誘電液晶はコスト高のため、3Dメガネは実売1万8000円前後(オープンプライス)と他社製品の倍近い値段になるという。LVP-HC7800D/DWには赤外線トランスミッターは付属するものの、3Dメガネは別売になっている。購入時には3Dメガネの費用も合わせて考えたい。
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