年度末の決算時期が近づき、国内電機メーカーの苦境が大きく伝えられている。とくに不振を極めるテレビ事業が各社の足を引っ張っているとの報道を目にするが、その最も大きな原因は、誰もが指摘するように、世界中で進行する予想をはるかに上回る価格下落だろう。確かにここ日本でも、量販店やネットなどで各社のテレビのプライスタグを見るたびに、急激な値段の下落に信じられない思いを抱いてしまう。
しかし、これもまたいつか来た道。1980年代半ばの大画面テレビ(とはいってもたかだか28インチ前後だったが)登場以前、前世紀末の薄型テレビ登場直前も、各社がブラウン管テレビを安売り、叩き売りしていた光景をぼくは鮮明に覚えている。考えてみれば電機業界、ずっと同じ過ちを繰り返しているのだ。
テレビの真の価値、それを真剣に考え、マーケティングして来なかったツケが回ってきたというほかない。確かにテレビがひたすらくだらないバラエティー番組を見るための受像機としての役割しか求められないのなら、叩き売りされても仕方がない。だってどんなテレビだっていいんだもの。安いのが一番ということになるだろう。
スマートテレビの興味深い論議もさまざまに進められているが、ぼくは大型テレビをまずは映画やドラマ、音楽ライブ、舞台中継など真摯に制作された作品を大画面で観るためのディスプレイ、感動を得る「窓」だと位置付けたい。日本を訪れた外国人にいわれて初めて気づくことだが、わが国ほど高画質放送が充実している国は他にないのだ。BSプレミアムやWOWOWなどで放送される映画番組は、世界一の高品質を誇っているといっていい。
日本人がせっせとBlu-ray Discレコーダーに番組録画して、それをコレクションとして大切に保管するのは故無きことではないのだ。だからこそ画質が飛び抜けてよい、使い飽きしないデザインの美しい高級テレビがほしいと思うのである。
いっぽう国内テレビメーカー各社の高画質化への取り組み、その熱意はまったく衰えていない。毎年各社から登場する大画面テレビをぼくはすべてチェックしているが、ここ数年でそれら大画面テレビの画質はある高みにまで到達したと思えるほどである。
昨年秋から暮れにかけて発売されたテレビのなかでは、4K2Kタイプの東芝「55X3」のほか、卓越したコントラスト表現を獲得したソニー「KDL-55HX920」、液晶テレビがいまだ実現できない色数の豊かさを誇るプラズマ機パナソニック「TH-P65VT3」などが強く印象に残っているが、40インチ台でとくに画質がよかったモデルとして、日立「L46-S08」を挙げたい。
なにはともあれ、本機S08の峻烈(しゅんれつ)なコントラスト表現には誰もが驚かされるはず。とくに黒輝度の低さは驚異的で、漆黒の闇をみごとに描き出す。高画質で話題のヴィスコンティ監督の「山猫」のBDを暗室で観てみると、映像の上下に出る黒帯が周囲の闇に溶けて、まるで“シネマスコープテレビ”が中空に浮かんでいるかのような錯覚を抱くほどである。
本機には、「S-LED」と呼ばれる第2世代にあたる日立独自のエリア制御の直下型LEDが採用されている。つまり、入力信号の輝度レベルに応じてエリアごとにLEDの発光レベルを制御するローカルディミングの手法が採られているわけだが、その制御がじつにみごとで、これがバックライトを用いた液晶テレビか? と我が目を疑うハイコントラスト映像が実現されているのである。
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