2011年に発表され、実際にハンドリングしたAV機器のなかで、ぼくが個人的にいちばん欲しい、自室で使ってみたいと思った製品はソニーの4Kプロジェクター「VPL-VW1000ES」だった。つい先日、「プレイステーション3」との組み合わせでリアル4K解像度の静止画が表示できるソフト「PlayMemories 4K edition」が発表されたばかりだが、今回の連載では本機VPL-VW1000ESの魅力を語ってみたいと思う。
昨年10月にソニー厚木テクノロジーセンターで、映画「ブレードランナー」「ツーリスト」「山猫」などのBlu-ray Disc、ソニー・ピクチャーズ エンタテインメントがデジタルシネマ上映用に4K制作した「アメイジング・スパイダーマン」の抜粋版などをVPL-VW1000ESの試作機で観て、上質なダビングシアターで観るファーストカットのような、鮮度感抜群の峻烈(しゅんれつ)な映画画質に大きなショックを受けた。
表示パネルと同じ解像度の4Kコンテンツの画質の凄さはある程度予想されたものだったが、ぼくが驚いたのはHD(2K)解像度(1920×1080ピクセル)のBlu-ray Disc画質のすばらしさだった。BDは“あるがまま”を写すHDパネルでドット・バイ・ドット表示したほうが、余計なスケーリング処理が入らないぶん画質もいいはずと思い込んでいただけに、映像のキレのよさ、緻密さで通常のHDプロジェクターを大きく上回る本機の表現力にこれはヤラレタと思ったのだった。
ではここで、本機の詳細について触れておこう。採用された反射型液晶素子(LCOS)のSXRD表示パネルはソニーオリジナル。新開発の画素間ピッチ4マイクロメートルの0.74インチ・タイプで、解像度は4096×2160ピクセル。つまりフルHD(1920×1080ピクセル)の4倍強の解像度を持つわけだ。では、なぜジャスト4倍(3840×2160ピクセル)ではないのか。そのわけは17:9というアスペクト比を採用しているため。これはビスタサイズ(1:1.85)を表示してわずかに左右が余り、スコープサイズ(1:1.25)がスムーズに表示できる縦横比ということで、DCI(デジタルシネマ関連の技術標準化組織)が推奨する縦横比でもある。劇場用SXRDプロジェクターの表示パネルもこのアスぺクト比が採用されているようだ。
配向膜の平坦度を従来パネル以上に追い込んだことで散乱光が抑えられ、アイリスを用いたダイナミック・コントラストは100万:1(下位モデルのHDプロジェクター「VPL-VW95ES」は15万:1)。ネイティブ・コントラストは発表されていないが、実際に見た漆黒の表現は、これまで水をあけられていたJVCのトップエンド・モデルとほぼ同等のレベルまで向上した印象を受ける。
なお、この微細な画素ピッチを実現した4Kパネルは近距離視聴でもメッシュ感やジャギー(斜め線のギザギザ)が気にならないため、ソニーは本機使用時の視距離として水平視野角60度、垂直視野角36度が実現できる1.5H(画面高の1.5倍)を推奨している。視力1.0の人間の目の分解能は角度1度あたり約60画素とのことで、垂直解像度2160本の本機を垂直視野角36度が実現できる1.5H視聴すれば、その限界値での観賞が可能になるわけだ(60×36=2160)。しかも1.5H視聴は、人間が映像から得る迫力(力量感)と快適感を両立するベスト・ポジションという研究成果も明らかにされている(映画館の指定席のいちばん前あたりがほぼこの視野角になる)。
光源は330ワットの高圧水銀系ランプ。劇場用のキセノンランプに比べて色分布特性がピーキーな光源だが、本機は330ワットという高出力を生かして、いちばん弱い赤のレベルに合わせて光出力を調整し、それに電気的補正を加えることで、2000ルーメン(最大)という高出力を得ながらキセノン並みのブロードな色分布特性を実現したという。
実際に本機の画質をチェックし、4Kコンバート映像の精細度の高さとともに、この色の魅力に大きな感銘を受けた。筆者はJVCのD-ILAプロジェクターを3世代使い継いでいるが、それ以前はキセノンランプを搭載した「VPL-VW200」というソニー機をしばらく愛用していた。VPL-VW200はコントラスト表現はいささか物足りなかったが、赤・黄系統の色数の多さ、色の厚みにワン&オンリーの魅力があった。本機はそのVPL-VW200を彷彿させる色の楽しさを味あわせてくれるのである。
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