――前回は、スクリプテッドコンテンツ(脚本のある作品)の3D制作について、状況が変わりつつあるというお話でした
麻倉氏:私はソニー・ピクチャーズ・テクノロジーズのCTO兼エグゼクティブ・バイスプレジデントのスティーブン・ステファンス氏に、同社が最近行った3D制作の合理化実験についてインタビューしました。同社は「良い3D映像でなければ普及しない」として、本社内に「3Dテクノロジーセンター」を設立し、他社のプロデューサーやカメラマンなどを含め、すでに3000人に教育を行っています。
麻倉氏:また、3D制作環境の向上に力を入れていて、とくに3D撮影をいかに合理化するかという実験を2年間にわたって行いました。その結果、合理化すれば3Dも2Dとほぼ同じ時間で作れることが分かったそうです。
コスト面では、セットや撮影にかける金額より、むしろ出演者を確保するスケジュールによる負担が大きく、効率の良いスケジュール作りがコスト抑制に役立ちます。例えば、ソープオペラの「デイズ・オブ・アワーライブス」では3台のリグを使いましたが、1日で取り終えることができたそうです。従来なら3倍の時間がかかったはず。なぜ、そんな離れ業が可能になったかといえば、調整が大変な機械的なリグではなく、電子制御のリグを使ったからです。
3realityという会社のリグは、コンピュータ制御で画角を自動調整します。ズームしながらの調整も可能という優れもので、撮影前に設定しておけば、あとは移動してもすぐにアジャストしてくれます。さらに重要なのは、電子制御で間違いなく撮影できるため、取り直しも少ないことでしょう。撮影コストを上げる要因は、日数と取り直しの手間です。リグの価格は高いですが、トータルなコストで見るとお得になり、しかも出演する俳優たちの待ち時間が減り、テンションが下がらないこともポイントといいます。その結果、これまで難しかったドラマ撮影も、2Dとあまり変わらないコストでできることが分かったそうです。
これまでライブやスポーツ、ドキュメンタリーに限られていた3Dコンテンツですが、今後は3Dドラマも撮れるようになるでしょう。ドラマでは、人の位置で人間関係を示すなど、より緻密な撮影が必要です。例えば、マーティン・スコセッシ監督の映画「ヒューゴの不思議な発明」は、“物語を3Dで語る”映画作りが話題になりました。3Dには、ドラマにおいても2D撮影とは違った効用があるのです。そうした優れた3Dドラマの登場も、今後は見込めるということです。
もう1つのコストダウンの決め手は「5D撮影」です。これはスポーツなどの撮影を想定したもので、2つのカメラで3Dを撮影し、同時に左のカメラだけで2Dを撮る手法です。サッカーのような遠景メインのスポーツでは難しいですが、近接撮影中心の競技なら対応できるといいます。例えば、格闘技のようなスポーツなら、もともと3Dの迫力映像が撮れる距離で撮影するので問題ありません。これまでは2Dと3Dを個別のチームが撮影していましたが、これなら1チームで済みます。
麻倉氏:カメラの小型化もポイントでしょう。MP3やH.264の圧縮技術で有名なドイツの政府系研究機関、フラウンホーファー協会(Fraunhofer-Gesellschaft, FhG)は、わずか200グラムという手のひらサイズの3Dカメラを開発しました。この3DカメラはMPEG-4 AVCのHD映像を出力できるため、先ほどのブンデスリーガ撮影では、ネット裏の常設カメラとして活用されています。また、機動性を重視したドキュメンタリーやドラマの撮影にも適しているそうです。
フラウンホーファーは、ドイツ全土に56もの研究所を持ち、のべ1万7000人の研究員を抱える大規模な研究機関です。15年前に「3Dイノベーションセンター」を設立し、35人の研究員が3D関連の研究開発を進めているということです。このような研究が盛んに行われていることには驚きましたね。
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