プロジェクターやBlu-ray Discレコーダーなどは、毎年のように新製品を自宅に導入している筆者だが、テレビだけは2008年秋に発売されたパイオニアの50V型プラズマモニター「KRP-500M」をいまだ使い続けている。
その理由はただ1つ。このプラズマ機を大きく上回る魅力、画質のよさとデザインの完成度を持った新製品に出会えないからだ。とくに色の深みと漆黒、暗部のディティール表現で本機を凌駕(りょうが)する液晶テレビは今なお存在しないというのが筆者の個人的見解。東芝の「55XS5」 など、その4K2Kアップコンバート映像の精細度の高さにひかれるのは事実だが、残念ながら色と階調、コントラスト表現力でKRP-500Mを凌駕しているとは思えない。
とくに色の見せ方で液晶テレビは今なおプラズマテレビの後じんを拝しているのが実情だ。数年前にシャープから3原色のRGBに黄色のサブピクセルを加えた4原色タイプ(クアトロン)が登場したが、液晶テレビのほとんどは紅、あかね色といった深い赤系統の色が表現できず、すぐに朱色に転んでしまうのである。
デジタルシネマの標準色域DCI に向けて色拡張する『ハリウッドカラーリマスター』を搭載するパナソニックのプラズマテレビの新製品「VT5シリーズ」を見ても、その鮮やかで豊麗な“ 映画の色” にはワン&オンリーの魅力がある。同社の液晶テレビの新製品「WT5シリーズ」の画質もたいへんよいが、こと色の魅力に注目すると、VT5シリーズにまったくかなわない。
伝え聞くところによると、パナソニックの新社長は「プラズマはスジが悪い」ので尼崎第3工場を閉めることを決断されたそうだが、そのスジというのは、あくまでも「ビジネスとしての〜」だろう。画質のスジは液晶よりも自発光のプラズマのほうが断然いいと筆者は今なお思う。
さて、前置きが長くなってしまったが、“液晶テレビの色”に対する筆者の不満を吹き飛ばす、たいへん興味深いテレビが三菱電機から発売された。55V型の“REAL LASERVUE”(リアル レーザービュー)「LCD-55LSR3」である。本機は三菱がこの数年力を入れている録画テレビのプレミアム版として位置づけられる製品で、1Tバイトの容量を持つHDDと3D対応Blu-ray Discレコーダーを内蔵した“3 in1”タイプ。3 チューナー仕様なので、2番組同時録画中に他チャンネルの番組視聴が可能となる。
注目すべきは、そのバックライトの構成。赤色レーザーとシアン(水色)色LEDをハイブリッド化した光源を持たせ、色域の拡大と色純度の向上を図っているのである。現行のほとんどの液晶テレビは、青色LED に黄色の蛍光体を加えて白色を発光させ、RGB フィルターによってフルカラーを得ているわけだが、青色LED と黄色蛍光体で得られる白色光源は波長特性がきわめてピーキーで、RGB のうち青だけが強い発光強度が得られ、緑と赤の出力が著しく低くなってしまう。これが先述した液晶テレビの色の問題の根本原因の1つであると理解していい。
そこに三菱電機はメスを入れた。白色LEDでもっとも出力が低かった赤だけに直線性が強く発光強度の高いレーザー光源を充て、青と緑については、青色LEDに緑の蛍光体を加えてシアン色LED を発光させ、純度の高い青と緑の出力を得るという手法が採られたのである。
三菱電機は、2010年にRGBの3原色それぞれにレーザー光を使ったDLPタイプの75V型プロジェクションテレビ「75-LT1」を発売するなど、レーザー光源を用いたディスプレイ技術を他社に先駆けて磨いており、今回その技術の一端を比較的手頃な価格の液晶テレビに応用したわけだ。
5月中旬に組み上がったばかりの試作機を見たときは、このハイブリッド光源の高い潜在能力を制御しきれていない印象で、肌色が大きく赤みがかる、ノイズが目立ちやすいなどの問題点を抱えていた。ところが、その後6月下旬に見た最終試作機は画質が見違えるように向上し、『シネマ』モードの肌色も安定、このハイブリッド光源ならではと思える色の魅力が実感できる液晶テレビに仕上がっていたのである。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR