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テレビはもう、次のフェーズへ IFA総括麻倉怜士のデジタル閻魔帳(1/4 ページ)

» 2012年09月26日 13時19分 公開
[芹澤隆徳,ITmedia]

 家電メーカーを取り巻く環境は厳しさを増しつつあるが、それとは裏腹に今年の「IFA 2012」は過去最大規模となり、話題も豊富だった。展示会場では、ソニーと東芝の84V型4KテレビやシャープのICCテレビ、韓国勢の有機ELテレビなどが注目を集め、テレビという製品が次のフェーズに移行しつつあることを感じさせたという。AV評論家・麻倉怜士氏に詳しく解説してもらおう。

ドイツ・ベルリンで開催された「IFA 2012」

――今年のIFAはいかがでしたか?

麻倉氏:今年のIFAは例年と異なり、非常に“未来志向”なイベントだったと思います。私は今年で3年めになりますが、ことディスプレイのマーケティングに関しては、例年とはかなり違う様相を呈していることが分かりました。

 振り返ると、数年前の家電市場は「いかにハイビジョンを普及させるか?」が大きなテーマでした。しかし、世界的にハイビジョンテレビが普及した近年は、それをいかに活用するかというフェーズに移りました。昨年のIFAでフルHDを前提とした3Dテレビやスマートテレビが登場してるのは、まさに“活用”の段階だからです。

 そして今年のディスプレイ市場は、もうフルHDではなく、“次のプラットフォーム”にいかに移行するかがテーマ。解像度の革新に加え、一世を風靡(ふうび)した液晶テレビに代わるデバイス、有機ELの展望がはっきり見えてきました。

 一方、3D技術にも変化がありました。それは偏光方式の勢いが大幅に増したことです。重く、電池も必要な液晶シャッター方式メガネから離れ、軽く明るい偏光メガネに向けて各社がアプローチを開始しました。これらをまとめると、テレビの“次のトレンド”がはっきり見えたイベントといえるでしょう。

――有機ELテレビの状況はいかがでしたか?

麻倉氏:年初のInternational CESでは、韓国のLGエレクトロニクスとサムスンが今年の夏から秋に発売すると発表しましたが、両社ともまだ本格的に立ち上がってはいません。話を聞いた印象では、量産に向けたツメの段階というところでしょうか。

LGの有機ELテレビ(左)。サムスンは有機ELテレビで3D表示のデモ。液晶シャッター方式の3Dメガネを使用する(右)

 ただ、白色発光の有機ELパネルにカラーフィルターを組み合わせる方式のLGは一歩進んでいるようで、インタビューでは「韓国で12月には発売できる」と話していました。一方のサムスンは、RGB個別に蛍光剤を塗布する方式。色再現では一日の長がありますが、発売はさらに遅れるという観測もあります。

 両社が現在、抱えている問題は、有機ELパネルの発熱です。有機ELパネルが安定した発光を保つため放熱は非常に大事ですが、IFA会場では、サムスンとLGの担当者が毎日のように、相手のブースに行って赤外線サーモグラフィーで試作機の熱を測定したそうです。LGについては、解決のめメドは立っているようで、「テレビは熱くなるが、背面にカーボン繊維の板を取り付けることで効率良く熱を放出できる」と話していました。

 また、有機ELパネルの製造方法について、LGはスパッタリングで作っているのですが、サムスンは露光です。このため、サムスンが製造できるパネルサイズには限りがあるのではないか、とLGの担当者は指摘していました。LGでは理論的に95インチまで製造可能で、4K化も視野に入れています。このようにLGは自社の製造方法の優位性をアピールしていましたが、実際に市場投入は遅れています。画面のユニフォーミテイの問題と発熱の問題は大きいのでしょうね。

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