今回の「麻倉怜士のデジタル閻魔帳」は、4Kを巡る3つの新しい動きについて、AV評論家・麻倉怜士氏に解説してもらおう。JVCの新しいプロジェクター、そしてソニーとパナソニックのBlu-ray Discレコーダーに採用された4Kアップコンバートの意外な機能とは? また、先日幕張メッセで開催された「Inter BEE 2012」でも注目の動きがあったようだ。
――今回は4Kの最新事情ということですが、4Kテレビやプロジェクターは売れているのでしょうか?
麻倉氏: 昨年末にソニーの4K2Kプロジェクター「VPL-VW1000ES」が発売されて1年が経過しますが、まだ人気は衰えません。先日、ある販売店主催の試聴イベントを行ったところ、1日で6台も売れたそうです。価格を考えれば、たいへんな好調ぶりといえるでしょう。ただし、ソニーは期待されていた「VPL-VW95ES」クラスへの4Kモデル投入をしていません。これはとても残念なことです。
一方の直視タイプでは、ソニーが84V型の「KD-84X9000 」を11月23日に発売し、東芝も第2世代となる84V型など3サイズを来春発売する予定です。また発売が遅れているシャープの「ICC LED-TV」も注目。この連載でも何度か触れているように、シャープの遅れは、近藤さん(ICCを開発したアイキューブド研究所の近藤哲二郎代表)の求める画面の水準が極めて高いからです。具体的には究極のユニフォミティーを実現するためです。難しいことは承知していますが、ICC LED-TVの持つ圧倒的な精細感の魅力は、テレビ向け超解像のあるべき姿だと思います。早く出てほしいものですね。
麻倉氏: さて、本題のホームシアターの話をする前に、幕張メッセで開催された「Inter BEE 2012」(国際放送機器展)に行ってきたので報告したいと思います。展示会場はもう4K一色。“4K Inter BEE”といっても良いくらいでした。
例えばソニーは、放送・プロダクション用として低価格の4Kカメラを発表しました。今年発売した8K CMOSイメージセンサー搭載のCineAltaカメラ「F65」は600万円弱もしましたが、新しい「PMW-F55」は260万円、そして「PMW-F5」は160万円前後といいますから、もう普通のフルHDカメラとあまり変わらない価格帯にまで下がってきましたね。
中でも最も驚いたのは、レースのオンボードカメラなどに使用されるアクション用の小型固定焦点カメラでもPRO HDの新製品「HD 3」が4K2Kカメラになったことです。しかも落としても壊れない頑丈さ。4Kコンテンツ制作の環境が整ってきたといえます。
一方、キヤノンは8月に発表した一眼レフ型の4Kカメラ「EOS C-500」などを展示していました。また、朋栄は自社でCMOSセンサーを開発し、4K解像度で秒速900コマというスーパースローカメラ(高速度カメラ)「FT-ONE」をリリースしています。昨年は「RedOne」くらいしか4Kカメラがなかったのに、今年はずいぶんと状況が変わりました。
スカパー!JSATは、10月20日にJリーグ生中継の4K映像伝送実験を行い、そのデモンストレーションをアストロデザインと富士通のブースで披露していました。4KコンテンツはフルHDの4倍(約70Mbps)とデータ量が大きいことをはじめ、撮像した映像を見るために“デジタル現像”と呼ばれるレンダリング処理が必要なこと、リアルタイム符号化や伝送ネットワークの負荷が大きいことから、これまでは中継などに利用するのは難しいと言われてきました。
しかし、今回はキヤノンの「EOS C-500」で撮影した4K映像をアストロデザインのC500 RAW現像装置(4Kカメラコントロールユニット)でリアルタイムに現像処理を行い、符号化には2台で分散処理が行える富士通のコーデックを用いることで、衛星を使用した4K映像伝送に成功しました。衛星からはフルHD帯域を4つ使って伝送するそうです。周波数帯の“空き”を考えると、地上デジタル放送はいっぱいいっぱいですが、CSなら余裕があります。今回の実験を踏まえると、4K放送はCSから始まるのではないでしょうか。
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