一昨年あたりから、わが国の音楽ファンの間で大きな話題となり始めたハイレゾ・オーディオ。CDフォーマットを超える器の大きな音楽ファイルの魅力が、広く世間の関心を集めるようになってきたわけだ。「e-onkyo music」や「OTOTOY」「HQM STORE」に加えて、ソニー系の「mora」やビクター系の「HD-Music」などが加わり、ハイレゾ音源をサービスする音楽配信サイトが充実してきたことがその第一の理由に挙げられるだろう。また、その流れに合わせて国内外のオーディオメーカーからUSB-DACやネットワークプレイヤーが数多く発売され、ポータブルプレイヤーやAVアンプのハイレゾ対応が着実に進んでいることは、みなさんご承知の通りだ。
今から7年前の2008年に、ぼくはLINN(リン)の初代ネットワークオーディオプレーヤー「KLIMAX DS」を購入し、よちよちとデジタルファイル再生に取り組み始めた。実際にそれまで買いためていたCDをリッピングし、NAS で音楽コレクションを一元管理してみて、聴きたい楽曲にすばやく自在にアクセスできるネットワーク再生の快適な使い心地にまず驚いたが、やがて「リンレコーズ」や「HD tracks」などの海外配信サイトのハイレゾ音源にアクセスするようになり、その音質のよさに驚愕。ハイファイ・オーディオの未来は間違いなくここにあると強く確信したのだった。
そんなわけで、ぼくはこの数年間ハイレゾオーディオ関連機器をウォッチし続けてきたわけだが、今月の連載は、百花繚乱の様相を呈してきた最近のハイレゾ関連機器の中から、比較的手頃な価格の製品で強く印象に残った3モデルをご紹介しようと思う。
最初に取り上げるのは、USB-DAC機能付きのネットワークオーディオプレイヤー、パイオニア「N-70A」だ。2011年に発売され、コストパフォーマンスの高さで人気を呼んだ「N-50」の上級機である。
DLNA1.5準拠のネットワークオーディオ機能とイーサネット端子を備えた「N-70A」。USB入力も可能で、最大384kHz/32bitのPCM音源、5.6MHz DSDまでのデジタルデータに対応している。現状、入手し得るほぼすべての音楽ファイルが再生できる仕様だ。採用されたDACチップは、その音のよさで注目を浴びているESSテクノロジーの32bit/8chタイプ「ES9016」。このチップをL/R独立のモノモードで使用し、その差動出力を活かしたXLRバランス出力を装備している。
筐体(きょうたい)内部をのぞくと、デジタル用リニア電源、デジタル回路、アナログ用リニア電源/アナログ回路と3ブロックに分割され、梁(はり)を渡して側壁を設け、音質阻害要因となる各ブロックの相互干渉を抑えてボディー剛性の向上に意を尽くしていることが分かる。
まずイーサネット端子を活かし、ネットワーク経由で愛聴しているハイレゾファイルをいくつか聴いてみた。腰の座った力強い音が持味で、ロック、ジャズ、クラシック何を聴いても不満を覚えることがなかった。とくに響きの肌理の細かさが印象的で、スピーカーから空間に音が解き放たれるのが目に見えるかのよう。これぞハイレゾファイル再生の醍醐味(だいごみ)だ。
RCAアンバランス出力とXLRバランス出力を聴き比べると、後者のほうが出力レベルが高いことが分かる。音量をそろえて聴き比べてみたが、やはりXLRバランス出力のほうが音楽を元気よくフレッシュに聴かせる印象で好ましかった。バランス入力を備えたアンプをお持ちの方はぜひその音を体験してほしいと思う。
USB接続時のPCから流れ込むノイズ対策も万全のようで、ネットワーク再生時(イーサネット接続)とUSB入力時の音質差がほとんどないことにも感心させられた。以前の製品ではUSB接続時のノイズ対策が完全ではなかったのか、ネットワーク再生時のほうが音がよいというケースがあったからだ。
つまりユーザーの再生環境に合わせてどちらかを選べばよいのだが、昨今バッファローなどからDSDファイルの送出機能を備え、音質設計に注力した使い勝手のよいオーディオ専用NASが登場しており、音楽再生中にPCをなるべく開きたくないという方には、ネットワークオーディオ再生をお勧めする。
パイオニアからは、より低価格の「N-50A」も同時発売されている。実際に同条件で聴き比べてみたが、音質差は予想以上。両者のどちらを買おうかとお悩みの方は、ちょっと無理をしてでも本機「N-70A」をゲットされるべき。ちょっと残念なのは、パイオニア純正の専用操作アプリでは再生中にプレイリスト作成ができないこと。ここは早急な改善を求めたいところだ。
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