4Kテレビとともに、昨年秋以降熱心なAVファンの間で話題を集めているのが、新しいサラウンド・フォーマット「Dolby Atmos」だ。
昨年の秋から冬にかけて、パイオニア、ヤマハ、デノン、マランツ、オンキヨー/インテグラなど国内の専業メーカーからアトモス対応一体型AVアンプが発売されたが、今年に入ってフランスのTRINNOV AUDIO(トリノフ・オーディオ)から5組10本のオーバーヘッドスピーカーが設置可能な「ALTITUDE32」(アルチチュード32)が登場し、マニアの熱い視線が注がれている。
本機は録音スタジオ等プロの現場に音場補正プログラムを提供していたトリノフ・オーディオが発売する初の家庭用プロセッサー/プリアンプで、64ビット浮動小数点処理デュアルコアCPUを内蔵して同社独自開発のプログラムを走らせた超弩級機。3Dマイクを用いて精密なルーム/スピーカー補正を行って実際に音を聴き、その途轍もないパフォーマンスに驚愕した。聴きなれた国産一体型AVアンプとは、音数、情報量がまるで違うのだ。
ぜひ購入して自室でじっくり使いこなしてみたいとの思いは募るが、16ch出力仕様で455万円というこれまた途方もないプライスタグ。残念ながら手も足も出ない。
そんなわけで、現在はこの1月に導入したパイオニア「SC-LX88」を用いて、すでに取り付けてあったフロントハイト/サラウンドバックスピーカーを当面トップスピーカーとして活かしながら、Dolby Atmos収録Blu-ray Discを楽しんでいる(BDプレイヤーは同時導入したパイオニア『BDP-LX88』)。
筆者はパイオニア製AVアンプをここ数年使い継いでいるが、本機「SC-LX88」はその中でも出色の出来だと思う。同社が「ダイレクトエナジーHDアンプ」と呼ぶクラスD (デジタル)アンプの音質を磨き上げ、ステレオのオーディオソースを聴いても同価格帯のプリメインアンプに拮抗し得る本格の音を聴くことができる。
また、本機の充実したハイレゾファイル対応にも注目すべきで、ネットワークプレーヤー機能のみならずUSB-DAC機能も持たせ、ネットワーク経由とUSB メモリー両方で5.6MHz/DSDファイルの再生に対応している。
ところで、筆者がパイオニア製AVアンプを使い継いでいる理由は、まずマルチチャンネル再生時のキレのよい瞬発力に優れた音に惹かれているからだが、もう1つ、同社が10年以上前から研究・開発を続けてきた自動音場補正機能「MCACC」が手放せないからでもある。
本機に搭載された最新版は「MCACC PRO」と呼ばれ、全チャンネルのスピーカーの位相(出音のタイミング)をピタリとそろえ、ソフト制作時の不備によって生じたLFE (低音専用)チャンネルの時間遅れまで較正してくれるのである。実際にオーバーヘッドスピーカーを加えたDolby Atmos再生時にこの機能をはたらかせてみて、その効能に改めて大きな驚きを抱いているところだ。
Dolby Atmos再生に必須となるトップ(オーバーヘッド)スピーカーの配置だが、さまざまな実験を通して、トップミドルの 1組2本よりもトップフロント、トップリアの2組4本を天井に配置するほうがベターとの手応えを得た。またトップスピーカーが視聴位置に近いとかえって音場感が狭まり、窮屈な音になってしまうことも分かった。そんなわけで、先述のように既存のスピーカー配置を流用し、フロントハイトとサラウンドバック用スピーカーを用いてDolby Atmosを楽しんでいるわけだ。
フロントハイト用はMKサウンドの「SUR95T」なのだが、このスピーカーはAVアンプのベースマネージメント機能を用いて80Hz以下の低音をサブウーファーに振り分ける設計。リアハイト用はサラウンドバック用として配置しているリン「UNIK」を充てている。
この変則的なスピーカー配置でも「SC-LX88」はそれに相応しいレンダリング(演算)を行い、Dolby Atmosならではの3次元的に広がる雄大なサラウンドサウンドを楽しませてくれている。確かにそれはそうなのだが、天井の最適位置にトップフロント、トップリアにオーバーヘッドスピーカーを取り付けた状態と比較すると、やはりパフォーマンスに差が出る。例えば、オーバーヘッドに特定の音源をピンポイントで配置演出した場面などでどうしても音像がにじんだり、あいまいなサウンドになってしまうのだ。
そんなわけで、近いうちに新たにトップフロント、トップリア用スピーカーを天井に取り付けようと考えているところなのだが、まずスピーカーを何にするかとともに、音響的にも満足でき、見た目も美しく配置する方策に頭を悩ませている。ま、そんなことを考えるのも楽しい趣味の時間なのだが……。
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