3月上旬、「e-onkyo music」でDSD 11.2MHz音源14タイトルの配信が始まった。対応するDACや再生機器はまだ限られるが、DSD 11.2MHzの音にはAV評論家の麻倉怜士氏も舌を巻いたようだ。その魅力について詳しく聞いていこう。
麻倉氏:今回のデジタル閻魔帳は、ここ数カ月の間に激変したDSD配信の環境について話していきたいと思います。まずはDSD 11.2MHzの音源配信です。
ご存じのように、DSD(Direct Stream Digital)はソニーとフィリップスが開発・規格化した1bitオーディオフォーマットで、SACDに採用されたことでも知られています。音声信号を1ビットのデジタルパルスの密度で表現し、広い周波数帯域が特徴。SACDでは2.8MHz/1bitでしたが、2013年あたりから倍の5.6MHzという音源が出始め、昨年はさらに倍となる11.2MHzが登場しました。これが「素晴らしい音質」と話題になっていましたが、今年の3月には「e-onkyo music」から14タイトルの配信が始まり、いよいよ11.2MHzの時代が始まったのです。
11.2MHzのすごさは、非常に生々しいこと。演奏者が目の前にいるような感覚を強く覚えます。DSDの場合、サンプリングレートが倍になるとリニアに音質が向上します。一方、WAVやFLACといったリニアPCMの場合、サンプリングレートやbit数を増やせば情報量は増えるのですが、最近は192kHzの音源が登場しているにも関わらず、「96kHz/24bitが一番いい」と言われることも多いのです。
――そうなのですか?
麻倉氏:「192kHzの音源は弱々しく感じる」という人もいます。それも一般の人ではなくて、高音質で知られるレーベルを主催している方です。そのレーベルでは昔のアナログ音源をデジタル化する際も「192kHzにはしないでくれ」と頼んでいるそうです。理由を尋ねたところ、「192kHzは情報量はあるが、音楽の“核”のようなものが希薄になる」と話していました。
情報量が増えるにつれ、最初はリニアに向上していた音質が、ある点を超えると上がりにくくなります。情報量のカーブは上昇していても、“音が良くなるカーブ”は急に緩やかになってしまうのです。例えば、44.1kHz/16bitから44.1kHz/24bitになるだけで音質はかなり向上しますよね。16bitというのは、再生できる大きな音から小さな音までのレンジ(範囲)が96dBで、5万階調程度の表現力を持ちます。24bitでは144dBですから、より小さな音からより大きな音まで再生できるようになり、それまでノイズに隠されていたような微小な音も出てきます。
サンプリング周波数は、ある間隔で音を刻んでみたときの細かさを示していて、例えばCDの44.1kHzは1秒間に4万4100回の細かさ。再生できる音の周波数に換算すると半分の22.1kHz(=2万2100Hz)で、2万Hzまでといわれる人の可聴域をカバーするように作られています。しかし実際には足りなかったのか、96kHz/24bitにすると大きく音質が向上したことはご存じの通りです。
96kHz/24bitのとき、既に再生できる周波数帯域は人の可聴域とされる範囲を大きく超えています。ですから192kHzになっても可聴域から外れた場所で情報量が増えただけで知覚することが難しいのかもしれません。もちろん、A/D変換やD/A変換といった重い処理が足を引っ張っている可能性もありますし、まだ明確な理由は分かりません。
――ちょっと残念ですね
麻倉氏:ところがDSDでは、5.6MHzから11.2MHzに変わるとリニアに音質が向上します。“音が良くなるカーブ”が急に上がったような印象ですね。もちろんこの先は分かりませんが、11.2MHzにする効果は抜群なのです。
――さっそく聴いてみたくなりました
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