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電卓にも“持つ喜び”を――カシオ計算機が常識外れの高級電卓「S100」を発売する理由(1/2 ページ)

» 2015年09月16日 20時06分 公開
[芹澤隆徳ITmedia]

 カシオ計算機は9月16日、電卓のフラグシップモデルとなる「S100」を発表した。実売想定価格は税別2万7000円前後と電卓としてはかなり高価だが、重厚なアルミ切削ボディに実用性と操作感を両立させたキー、そして視認性の高い表示部など、現在考え得る最高のパーツを詰め込んだスペシャルモデルになった。

カシオ計算機の電卓フラグシップモデル「S100」。9月30日に発売予定

 カシオ計算機は、ちょうど半世紀前の1965年9月に世界初のメモリー付き電子式卓上計算機「001」を発売して以来、時代を象徴するような製品を数多く送り出してきた。1972年のパーソナル電卓「カシオミニ」や1983年に発売した厚さ0.8ミリのカード型電卓「SL-800」などは、電卓に馴染みの薄い人でも知っているだろう。しかし近年は低価格化が進み、電卓は100円均一ショップですら購入できる状況。電卓といわれて高価な製品と思う人は少ない。

1965年9月に発売されたカシオ「001」

 カシオ計算機で商品企画を担当している大平啓喜氏は、「社名で“計算機”をうたう会社の人間として、ゆゆしき問題だと長年考えていました」と話す。「例えば高級な時計を身につけでいる人でも電卓は980円のものだったり、高級車のディーラーで見積もりを頼んでも安っぽい電卓が出てきたりと、日頃からアンバランスさは感じていました。しかし、本当に良い物を求める人たちもいるはず。電卓発売から50年の節目を迎えるにあたり、本来あるべき電卓の姿を再考したいと思いました」(大平氏)

カシオ計算機の大平啓喜氏

 とはいえ、現在の電卓はとてもシンプルな製品だ。基本的には本体とキー、表示部という3つの要素でできている。そこで大平氏は、「より見やすいこと」「より入力しやすいこと」、そして「持つ喜びを感じられること」の3つを目標に定めた。

 まず表示部には、現在手に入るモノクロ液晶で最もコントラストが高く、見やすいFSTN(Film Compensated STN)を採用。偏光板が入っているため文字は青みがかって見えることもアクセントになった。表示部を囲むクリアなディスプレイウィンドウは、業界初となる両面反射防止コーティング(ARコート)を施している。ARコートは、室内の蛍光灯などが映り込むことを防ぐもので、広く一般に使われている。しかし通常は表面だけで、両面をコートする製品は珍しい。

 「両面ARコートは、高級腕時計『オシアナス』の一部モデルで採用例があります。またFSTN液晶は関数電卓でも使われていますが、この2つを組み合わせた製品は初めて。見やすさは一目瞭然です」と大平氏は胸を張る。電卓では映り込みを避けるためにチルト機構(表示部に角度をつける機構)を持つ製品も多いが、「S100」ではあえて設けていない。もちろん映り込みがなくなったわけではなく、映り込みがあっても数字は確実に“見える”からだ。視野角も広く、ほぼ真横の位置にいてもディスプレイが見える角度であれば数字も読める。

横から見ても数字が確認できる

キーボード専門メーカーと一緒に作ったキー

 キータッチを改善するため、大平氏が声をかけたのは富士通コンポーネントという会社だった。キーボードにこだわる人も多いPCの世界でキーボードやポインティングデバイスの専門メーカーとして地位を確立している同社は「V字ギアリンク構造」を提案する。V字ギアリンク構造は、キートップの下側を2点で支えることでストロークの圧力方向がぶれないというもの。例えばキーの端を叩いてしまった場合でもキートップが斜めに沈んだりはせず、しっかりと認識される。しかも指に打鍵感が伝わり、利用者が「押し損ねたかな?」と不安を覚えるケースも減るという。

キーの端を叩いてしまってもキートップが斜めになったりはしない

 キートップは、通常の印刷仕上げではなく、2色成型で作られている。断面をみると数字の色がキー内部まで続いており、まるで金太郎飴。これにより、長期間の使用で表面が摩耗しても数字が消えることはない。

「V字ギアリンク構造」(左)と2色成型キートップの概要(右)


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