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テレビ戦線、異常アリ――有機ELで起死回生を狙うパナソニック麻倉怜士の「デジタル閻魔帳」(3/5 ページ)

» 2015年09月28日 14時05分 公開
[天野透ITmedia]

LGのOLED大作戦!

麻倉氏:有機ELは今まで日韓で市場を争ってきました。最初に実用化にこぎつけたのはソニーですが、大型パネルにおいては55インチをサムスンとLGが商品化し、それをソニーが56型で追いかけ、さらにパナソニックが55型で追いかけるという展開がされてきました(→2013年のIFAリポート)。

 その後日本勢は大型パネルから手を引きます。「J-OLED」という専門開発メーカーを設立して事業を移転することで、小型ディスプレイに移行。よって日本からは当面、テレビ向けの大型パネルは出てこないでしょう。

――開発段階では日韓で戦っていたのが、量産フェーズに入ると完全に差が開いてしまったということですね

麻倉氏:それだけではなく、韓国2社間でも差が開いています。一時は2社が同じくらい力を入れてOLED開発に取り組んでいたのですが、サムスンは昨年からOLEDを目立って出さなくなってきました。今年の正月の段階ではOLEDではなく、曲面と量子ドット(クァンタムドット)を組み合わせた4Kテレビを「S-UHD」とブランディングして、これこそがこれからのテレビであるというマーケティングを展開しています。

 今年のサムスンブースにはテレビの歴史が展示してありました。ブラウン管、プラズマ、CCFLバックライト液晶、LEDバックライト液晶、OLEDときて、最後にLEDバックライトと量子ドットのS-UHDという流れです。解説を見てもS-UHDは「Brightness more than OLED.」などと書いてありましたね。

サムスンブースのテレビコーナー。「S-UHD」テレビはOLEDではなくLED液晶テレビ

――そういえばこのS-UHDに関しては、ベルリンの街ナカでも大きな広告を見かけました。会場を見てもテレビはS-UHDが全面に出ていたので、熱心に開発をしていたはずのOLEDがないことに違和感を覚えました

麻倉氏:サムスンが取り組んでいたOLED生産のやり方は、半導体生産のようにマスクを使って露光をし、RGBを作るという方法です。RGBがそのまま出てくるので画質は良いですが、非常に作りにくいという問題を抱えています。歩留まり率がとても悪いのと、マスクより大きなサイズは作れない(60インチくらいが限界)ということから、作れれば良いが製品としては実際問題として作れない訳です。

メッセ南駅から会場入口までにされていた飾り付け。今年のサムスンブースは映像機器よりもIoT技術のアピールが主眼になっていた

 一方のLGは、生産性の問題をほぼ解決する目処が立ったようです。LGディスプレイの幹部に最近インタビューしたところ、最近では歩留まり率が80%を超えたらしいです。フルHD換算は80%(生産時期によっては95%に達する)。4Kパネルは70%くらいだそうです。2年前はこの数字が逆(つまり歩留まり20%)だったようで、いくら物が良くとも100のコストを20の製品で賄わないといけなかった訳です。そのため製品が非常に高価になっていました。今は100のコストを80で賄うので、相当楽とのことです。

――わずか2年でこれほどまで不良品率が改善したのは驚異的です。これは生産管理のノウハウが随分と溜まったでしょう

麻倉氏:歩留まり率だけでなく、生産ラインそのものにも改良が入ったそうです。これまでの第1ラインは8.5世代パネルを縦半分にしてそれぞれ蒸着をかけ、さらに三等分に切り分けて55型サイズにしていました(E1ラインと呼ばれている)。これが今年の8月から、6枚取りの全面同時蒸着が可能なライン(こちらはE2ライン)に移行しました。蒸着と切り分けの手間が一回分省け、つまりラインの幅が倍増した訳です。その結果7月まで月産2万5千台だったものが、8月以降は10万台と急増しています。年間で見ると、昨年は数万台オーダーだったものが、2015年の生産見込みは60万台、2016年は150万台、2017年は200万台以上を目指すとの事です。

――それは凄いですね

麻倉氏:ここまで生産量を増やしたということは、真面目にOLEDを出していこうという現れでもあります。正直なところ、液晶をやっている所は、部材屋も完成品メーカーも流通も、どこも儲かっていないんです。理由は急激な価格低下にあります。

――液晶が出始めた頃は40インチで20万円くらい平気でしていましたけど、今ではその気になれば5万円でお釣りがくるので「いくらなんでもここまで安くなるものなのか?」という疑問さえ浮かびます

麻倉氏:一旦下がった価格は、新しい価値を入れないと生産側が上げたくてもなかなか上がりません。その上3Dや4K、曲面などで付加価値をつけても、すぐに価格は下ります。液晶はどこのメーカーでも参入できるため、差別化ができなかったということにあります。

 それに対して、そもそものデバイスを変えれば圧倒的に差別化できます。その上OLEDは自己発光なので、ディスプレイとしての性能は液晶とは比較にならないです。加えてこれまでよりも圧倒的に安くOLEDを作れるようになりました。「液晶に変わる新デバイスを」という機運もあるということで、LGディスプレイとしては市場を拓く千載一遇のチャンスなのです。今回LGディスプレイのハン社長がIFAのキーノートを務めたのが象徴的ですね。これまでのキーノートセッションはセットメーカーのトップが努めており、部材メーカーがキーノートに立つというのは前代未聞です。

――確かに、IFAのキーノートに部材メーカーのトップが立つというのは記憶にないです。しかしこうしてみると、OLEDの登場にはさまざまな力学が絡み合っていることが分かりますね

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