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テレビ戦線、異常アリ――有機ELで起死回生を狙うパナソニック麻倉怜士の「デジタル閻魔帳」(4/5 ページ)

» 2015年09月28日 14時05分 公開
[天野透ITmedia]

OLEDで起死回生を狙うパナソニック

麻倉氏:このような流れの中で、LGディスプレイは来年150万台を出すとしている訳です。それでも年間2億4000万台にものぼる世界のディスプレイ市場から見ると微々たるものです。

 しかしプレミアム市場に目を移してみると、年間出荷数は400万台という数字に変わります。このうちOLEDが150万台となると、これはなかなかスゴいインパクトを持ちます。

――単純計算でプレミアム市場の8台に3台がLGのOLEDパネルとなる訳ですから「高級OLEDといえばLGディスプレイ」ともいうべき、もの凄いブランド力を持つことになりそうです

麻倉氏:こうしたLGのOLED作戦に乗ったのがパナソニックです。実は今回のOLEDは、パナソニックにとって非常に重要なポジショニングなのです。

――パナソニックのテレビというとVIERAというブランドやハリウッドの研究所を持っているので、OLEDがそれ程大きなインパクトになりうるとは思えないですが、どういった事情があるのでしょうか?

麻倉氏:パナソニックは元来、ディスプレイにおいては自発光デバイスの会社です。これまでもブラウン管を作り、プラズマを作ってきました。御存知の通り、コントラスト、視野角、スピードという面で、画の良さは本質的に自発光デバイスが優れています。

――バックライト式の液晶デバイスでは、逆にこれらのポイントを挙げて「液晶三悪」などとも言われてきましたね

麻倉氏:しかし市場の趨勢は液晶に流れ、最後の砦であったパナソニックでもプラズマ撤退を余儀なくされました。プレミアムラインにおいてプラズマが負けた理由は、店頭の明るさで液晶に勝てなかったことだと私は見ています。実際使う家庭ではそこまで明るくないですが、お客さんが購入検討をする店頭では、バックライトで明るさを稼ぐ液晶に比べて、プラズマの明るさでは見劣りしてしまったというわけです。

――液晶はバックライトを明るくするとかなり明るくなりますけれど、実際の家庭でそんな明るさにすると目が疲れてしまいますよね

麻倉氏:パナソニックは自社のOLEDパネルを持っています。他社は蒸着方式でのOLEDパネル生産だったのに対して、2009年に参入したパナソニックは先進的な印刷方式を採用しました。これは大型のインクジェットプリンターでRGBの材料を塗布する“夢の方式”です。

 2013年のCESでは一枚取りの56型を提案しています。ですが一点ものでは商売にならないので、同年のIFAではマザーガラスを使った55型を提案しました。つまり、大量生産を目論んでいた訳です。

 しかし色々と話を聞いてみると、当時の性能では液晶との差別化が難しかったようです。結局商品化のタイミングを逸した形で、共同開発を組んでいたソニーと一緒に生産から撤退してしまいました。

――たられば論ですが、昨年の段階で商品化しておけば、今頃はもう少し違った展開になっていたのかもしれません

麻倉氏:そうですね。注目すべきはブランディングです。先にも述べたとおりパナソニックは自発光主義なので、バックライト方式である液晶を紹介する時にも「プラズマのノウハウを入れた液晶」といった言い方をしていました。「プラズマの後継として、いつかはもう一度自発光を」という流れが社内の基調にあった訳です。そのため昨年のIFAではLGの曲面パネルを使ったものを3台展示し、今年のCESでも展示していた。これは「パナソニックはOLEDをやる」という意思表示です。それが結実したのが、今回の正式発表という訳です。

――並々ならぬ意気込みを感じますね

2013年のIFAで展示されていたパナソニックの55インチOLED。この時は印刷方式で生産された自社開発のデバイスを使用していた。

麻倉氏:それとは別に、ヨーロッパ市場では「絶対にOLEDを出さないといけない」という事情がありました。何かというと、ヨーロッパ市場でパナソニックは液晶を評価されていないんです。

――それは意外ですね。なぜでしょうか?

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