麻倉氏:余談ですが、やまびこホールのモニタールームにあった吸音パネルが良かったので紹介しましょう。松村工芸の「CALMOFOAM」(カルモフォーム)というもので、樹の枝のような構造の吸音材です。
――吸音材、ですか? 普通のものと何が違ったんでしょうか
麻倉氏:このパネルは薄くて非常に軽いですが、三次元セルの穴が中低音を良く吸うんです。低音の吸収には通常だと波長の半分の長さの吸音板が必要で、例えば100Hz以下には30cmを要する訳ですが、これはたったの15mmです。
――それはまた随分と薄いですね。その秘密は何でしょうか?
麻倉氏:フェノール樹脂という素材を発泡させて枝のような複雑な構造を作っているそうです。メーカーによると反発性が0に近く、パワーのある音もちゃんと吸収するということです。実際に試してみたところ、ないとフォーカスが合わず音のキレが悪くなって、張り付いたような音になりました。使用するとフォーカスがピシャリと合ってあるべき場所から音が出ます。何より音の静けさや無音から音が立ち上がる感じがありました。
――イマーシブは空間そのもので音を奏でるので、ルームアコースティックがますます重要になりますよね。これからはこういった吸音材や調音パネルなんかも発展してゆくかもしれません
――続いていきましょう。次は何が出てくるでしょうか?
麻倉氏:第8位はスクエア・エニックス「Final Symphony - music from FINAL FANTASY VI, VII, and X」のBDオーディオ盤です。
――これはまた予想外のものが来ました。いくらBDオーディオといえど、麻倉さんがあまり積極的に選びそうにないタイトルに感じますが。なぜFFを選んだのでしょうか?
麻倉氏:実はこれ、10月の音展(オーディオ・ホームシアター展)でBDオーディオのセッションをやった時にスクエニ担当者が持ち込んだものなんです。実際に聴いてみたところ、腰を抜かさんばかりの高密度でした。それもそのはず、演奏はなんと“あの”ロンドン交響楽団なんですよ。さらに収録は天下のアビイ・ロード・スタジオで、96kHz/24bitの2chと5.1chはいずれももの凄く音が良いんです。
――プレイヤーもレコーディングも超一流じゃないですか! なんて豪華なFFなんだ……
麻倉氏:しかもこの曲目は、今年ロンドン交響楽団が来日した際に横浜と京都でこれを演奏しているんです(指揮者のベルナルト・ハイティンク氏も一緒に来日したがFFは指揮していない)。曲は非常にハイテクで、プロコフィエフを思わせるコンチェルトが入っているという複雑さです。
これの評価ポイントは「BDオーディオで出た」というところにあります。一昨年頃からオーディオ業界は空前の「ハイレゾ景気」にあるのは皆さんも御存知の通りでしょう。出始めの頃は音源も再生手段も限られていたハイレゾですが、最近では配信サイトの拡充と共にBDMVフォーマットを利用したBDオーディオという手段も出てきました。ある意味で「CDの正統進化系」といえる存在ですが、BDオーディオは配信と比較するとまだまだサブの存在で、ユニバーサルなど大手の音源は今まで配信で使っていたものや名盤の焼き直しがほとんどでした。音は抜群に良いのですが新鮮味に欠けるラインアップだった訳です。
――確かに今までのBDオーディオは、オーディオファンにとって聴き慣れた音源がズラリと並んでいるという印象でした
麻倉氏:ところが今回のFFは新作で、しかも内容が非常に濃いです。音が良い、演奏が良い、曲が良い、しかもパッケージと、BDオーディオの実力を最大限発揮させることに成功した画期的な音源といえるでしょう。
BDオーディオの中身は「ほぼ音声だけのBDビデオ」ですから、ゲーム機やPCでも再生できます。そういった意味で間口は広いですが、ある程度良いプレイヤーを使うと安定感が高く、透明度も高く、キレも良いというハイレゾの良さがストレートに分かる懐の深さも持ち合わせているのです。
また、今までのハイレゾはアナログ音源が多いので「アナログの良さがそのまま伝わる」という楽しみ方も確かにありますが、FFの場合は最新のデジタルで録られており、ものすごく細やかで、非常に力強く、安定しています。特に今回はフルオーケストラなので、大編成での音の出方が重要になります。その点、この音源は階調感や解像感、音質の違いといったところで非常に高い水準をクリアしています。何といってもアビイ・ロード・スタジオでの録音ですからね、そのありがたみが増すような音の出方です。
――タイトルのチョイスも良いですね。シリーズの中でも特に人気の高いVIIとXが取り上げられているので、ゲーム世代の多くの人が接していると思います。セフィロスのテーマをロンドン交響楽団が演奏するとは驚きです
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