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四国に8Kの未来を見た――完全固定カメラの舞台映像がすごい麻倉怜士の「デジタル閻魔帳」(1/3 ページ)

» 2016年05月11日 20時59分 公開
[天野透ITmedia]

 “究極の映像放送”「スーパーハイビジョン」として着々と開発が進む8K。今年のリオデジャネイロオリンピックでは各地で8K方式のパブリックビューイングも予定されているが、そんな中で8Kウォッチャーの麻倉怜士氏は「実は8Kと舞台映像は相性が抜群だ」ということを発見したようだ。キーワードは完全固定カメラ。「大画面で主体的に視線を動かせる引き画」というハイビジョン時代の理想が、8Kによってついに開花する。

麻倉怜士氏プロフィール

1950年生まれ。1973年横浜市立大学卒業。日本経済新聞社、プレジデント社(雑誌「プレジデント」副編集長、雑誌「ノートブックパソコン研究」編集長)を経て、1991年にデジタルメディア評論家として独立。現在は評論のほかに、映像・ディスプレイ関係者がホットな情報を交わす「日本画質学会」にて副会長を任され、さらに津田塾大学と早稲田大学エクステンションセンターの講師(音楽史、音楽理論)まで務めるという“4足のワラジ”生活の中、音楽、オーディオ、ビジュアル、メディアの本質を追求しながら、精力的に活動している。



天野透氏(聞き手、筆者)プロフィール

神戸出身の若手ライター。「デジタル閻魔帳」を連載開始以来愛読し続けた結果、遂には麻倉怜士氏の弟子になった。得意ジャンルはオーディオ・ビジュアルにかかる技術と文化の融合。「高度な社会に物語は不可欠である」という信念のもと、技術面と文化面の双方から考察を試みる。何事も徹底的に味わい尽くしたい、凝り性な人間。



麻倉氏:今回は2月にNHK技研で開かれた、8Kの見学会に関するお話をしたいと思います。これは5月に開催される技研公開のような大々的なものではなく、総務省をはじめとした関係者を集めて8Kの現状を視察してもらうという小規模なものでした。

――8K関連の話題ですと、日本テレビが初の8K収録として長寿番組の「笑点」を撮影したことが話題になりましたね。ですがNexTV-Fのイベントなどを見ていると、8Kに積極的なのはNHKかスカパー!という印象があります

麻倉氏:8K技術に関して、世界最先端は間違いなくNHKです。例えばこれまで「紅白歌合戦」やバレエ「ドン・キホーテ」などを収録していますが、これらは放送外のODS(Other Digital Staff)、つまり劇場への8K中継されるという展開を見せており、言い替えると“ノン・パブリックビューイング”(笑)などが始まるという訳です。

――“ノン・パブリックビューイング”という言葉が適切かは判断しかねますが、今までもオペラやライブ・コンサートなどのイベントが映画館で中継されるという事例はいくつかありましたね。これが8Kになってさらに精細感が増す、ということでしょうか?

麻倉氏:8Kなので精細感の向上はもちろんですが、今回はそう単純な話ではないんですよ。8K収録は特に劇場で「何を」「どう」見せたら良いかという点がまだ確立していない手探り状態です。この点のノウハウはこれから蓄積していくところです。

8Kを用いたパブリックビューイングはNHKが盛んに行っている。2014年のサッカーワールドカップブラジル大会では、地球の裏側からの8K中継に成功した(出典:NHK)

 そんな中、愛媛県東温(とうおん)市のプライベート劇場「坊っちゃん劇場」が注目すべき取り組みをしています。坊っちゃん劇場は平成17年に地元の食品メーカーであるビージョイグループと秋田県のわらび座が共同設立した劇場で、地域に根ざした四国や瀬戸内の伝統文化、キーパーソンをテーマにした舞台作品を上演しています。しかも上演内容は1年に1作の新作のみです。第1回目は地元ゆかりの「坊っちゃん」、第2回目はオリジナル作品の「吾輩は狸である」などで、基本的に演劇形態はミュージカルです。

 毎年新作を上演するのが原則ですが、瀬戸内の水軍をテーマにした第4回目となる2009年の作品「鶴姫伝説」に関しては、昨年の2015年に再演されました。これが8Kで撮影され、世田谷の砧にある300インチスクリーンの技研シアターで公開されたという訳です。大画面8Kの「鶴姫伝説」を観て、8Kの面白さや展開の可能性が随分とよく分かりました。

――プライベート系の劇場が毎年新作を上演するとは、なかなかに気合の入った展開ですね。しかもそれが地元を舞台としたオリジナル作品という取り組みは非常に素晴らしいです

麻倉氏:コダワリの取り組みの源泉は、「坊っちゃん劇場」の運営会社であるジョイ・アートの越智陽一社長です。また、数々の大河ドラマや朝ドラなどで脚本を手がけた名誉館長のジェームズ三木さんや、「アナと雪の女王」の「Let it go」など歌詞翻訳で知られる翻訳家の高橋知伽江さんをはじめ、宝塚歌劇団や劇団四季のOBなどが運営に携わっています。そういった影響もあって作品自体のクオリティーが非常に高く、1年で終わってしまうのはもったいないとなり、映像に残すことになりました。

――確かにスタッフクレジットを見てみると、地方劇場のプライベート作品とは思えない方々が名を連ねていますね。とても単年で上演が終わってしまうような作品には思えません

麻倉氏:そんな訳で記録映像を作り出したのですが、始めの頃は2Kのカメラを複数台使って撮っていたそうです。ですがある時、NHKなどで8Kの研究開発を手掛けるアストロデザインの鈴木茂昭社長と出会い、その可能性を知らされました。

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